見出し画像

みざくらの樹 #4 ~ ドラマ脚本家の栄華と懊悩

 前に、放映中のドラマ「いちばんすきな花」(2023年・フジテレビ)はなんだかなあ、と書いたきりもう観なくなっていたのだが、聞くところによると、前回は、夜々ちゃん(今田美桜)が「ヤフコメに喧嘩売った」んですって ?  顔をゆがめて毒づくような役なんてかわいそうに、ワタシの美桜ちゃんになんばしおっと !   (あっ、でも私は美桜ちゃんのことをカワイイだけって思っていないからね)。多く出ている人気の演者たちの黒歴史にならなければいいのだが。

 テレビ番組のヤフコメ(みんなの感想)は、自分はあまり良いとは思わない番組だが他の人はどう観ているのかな、と思ったときにときどき参照している。ネット社会になってからは、視聴率の低いもの、不評の番組は、関係者が総出で火消しや露骨な持ち上げをして世論操作をはかっているようだ。朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(2021年・NHK)などは思い出したくもないていたらくで、あげくの果てになんだか賞まで受賞したと知り、ただただあきれ果てていた。
 そのヤフコメだが、誰でも書けるだけあって、トイレの落書きレベルの悪口雑言もないわけではないけれど、きちんと書いている方は私と同じようにTVドラマという文化を愛していて、良い作品に出会いたいからこそ、辛口のこともあえて書いているのだと伝わってくる。言わすにはいられないのである。「いちばんすきな花」は、私自身はもう裏取りのためにも観る気がしないので確認はしていないが、おそらくまた無神経なエピソードが続いているのだろう。ここまでくると炎上商法かとも思わないでもないが、良い仕事をしようと思ったら、反対の意見にも謙虚に耳を傾けるべきではないですか。

 前には明言をしなかったが、この作品の戦犯は、脚本家とそれに口を出せなかった周囲の人たち。評判になった「silent」(2022年・フジテレビ)も後でまとめてみたのだが、心に傷のある特定の人たちに焦点を当てているものの、その他の人々への配慮に欠ける言動が目立っていた。そりゃあ「傷ついている人」が、自分の方は決してパーフェクトな善人ではないのは現実ではあるが、どこか予定調和を求めているドラマとしては、視聴した後にもやもやが残るのはいかがなものか。今回のこのドラマにも、カタルシスを感じる人はまずいないに違いない。

 クアトロ主演などと売り出しているのを見て、思い出すのは「カルテット」(2017年・TBS)である。それぞれワケアリの4人の音楽家たちが身を寄せ合って、資産家の別府(松田龍平)の家に住むところは似ている。彼らも互いの心の傷に気が付き始めるが、決して傷をなめ合ったりはしない。「生きづらさ」は誰にでもある仕方のないこと、しょせん付き合っていくしかないのだという、ある種の諦念を感じる。そして、クライマックスでは、彼らは演奏中に聴衆から空き缶を投げつけられ、それでも演奏を続けるのである。このドラマの最後の終わり方(大団円でない)はあまり思い出せないのだが、それはそれで決して後味の悪い作品ではなかったと思う。

 先日、山田太一さんが亡くなり、ますます昭和は遠くなった感がある。今、山田さんの作品を視聴し直しているが、オープニングに「山田太一 脚本」とドーンと出ることがあり、ここまで脚本家の地位を高めた山田さんの偉業に改めて敬意を表する。「北の国から」の倉本聰は、NHKと喧嘩して北海道の富良野にこもって遠くから作品を発信し続けている。「寺内貫太郎一家」の故・向田邦子さんは、一見華麗なキャリアに見えるが、作品に触れていくと内心はたくさん血を流しながら書いていたのだろうと思う。ドラマを制作する方々には、もう古臭い、と言わずにこれらの巨匠たちの作品に触れて「人間」を学んでほしい。今も昔もそんなに変わってはいないと思うから。
(2023年12月)