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窃盗を理由とする懲戒解雇無効地位確認等請求が斥けられ、未払割増賃金等支払請求が一部認められ(第1事件)、会社の元従業員、連帯保証人らに対する損害賠償等請求が一部認められた(第2事件)例(令和2年5月28日大阪地裁)

概要

第1事件は、乳製品乳酸菌飲料の販売等を目的とする被告会社の従業員であった原告が被告会社による懲戒解雇が無効であるとして、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、主位的に、労働契約に基づき、未払賃金及び遅延損害金、割増賃金及び遅延損害金、また労働基準法114条に基づき、付加金及び損害賠償債務が存在しないことの確認、予備的に、不当利得に基づき、金員及び法定利息の支払を求め、
第2事件は、被告会社が、原告が被告会社の管理する自動販売機から売上金を回収する際、自動販売機内の売上金を着服(窃取)し、被告会社の権利を故意に侵害したとして、原告については不法行為に基づき、原告の同損害賠償債務を被告A及び被告Bが連帯保証したとして、被告A及び被告Bについては連帯保証契約に基づき、連帯して、窃取された売上金相当額等及び遅延損害金の支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却、一部却下

判旨

元従業員が行った行為が売上金の着服(窃取)であること、1年以上にわたり繰り返し行われていたこと、その着服金額が100万円を超えること、その被害弁償も行われていないことを考慮すれば、本件解雇には合理的な理由があり、社会的相当性も認められる。

元従業員の労働条件通知書(雇入通知書)には、基本賃金月給15万5000円とあるのみで営業手当に関する定めがなく、この点、会社の当時の給与規程において営業手当に関し、「ただし、営業手当には、時間外勤務手当相当額を含むものとする」との定めがあったとしても、元従業員との間においてはそれと異なる約定であった可能性を否定できず、元従業員の労働条件通知書においては、他の箇所(休暇等)では詳細について就業規則を引用する定めがある一方、賃金については給与規程を引用しておらず、営業手当に関する定めがないことは給与規程とは別段の定めがある可能性を裏付けるものといえるから、元従業員との関係では、会社が主張する上記固定残業代の合意があったとは認められない。

元従業員が会社の求めに応じて9万7147円を支払っているところ、そこには何らかの合意等法律上の原因があることが窺われるが、上記支払に法律上の原因がないことを認めるに足りる証拠がないから、元従業員の不当利得返還請求にも理由がない。

元従業員が平成28年8月頃から平成29年10月頃まで会社が管理する各自動販売機内の売上金を多数回繰り返し着服している以上、相当額の損害が発生していると認められることに加え、元従業員が1125万2890円を着服金額として確認し、その支払を誓約していることを考慮すると、会社の算定は、平均に基づく推定計算とはいえ、実際の損害額とそれほど大きくかけ離れていないものと考えられるから、元従業員の不法行為により生じた会社の損害額は、少なくとも110万円を下回るものではないと認めるのが相当である。

本件各身元保証契約自体には期限が定められておらず、また、元従業員の当初の労働契約とその後の労働契約で元従業員の任地や職務内容に変更がなく、A及びBの責任を加重したり、監督を困難にするような契約内容の変更は認められず、そうすると、本件各身元保証契約を締結するに当たり、A及びBは、平成28年4月1日以降も元従業員の行為について責任を負うことを想定していたものと考えられ、加えて、元従業員の行為による会社の損害額が123万円である一方、元従業員が会社以外で勤務し、平成30年1月以降月額30万円以上の収入を得ており、元従業員にもある程度の弁済能力があると考えられるから、A及びBに全額の保証責任を負わせても、過大な負担を負わせるとはいえないこと、会社の過失を認めるに足りる証拠がないこと等の事情を斟酌すると、本件各身元保証契約の範囲は、元従業員の売上金着服行為に及び、その金額も会社が被った全額に及ぶと認めるのが相当であるから、A及びBは、元従業員の行為により会社が受けた123万円の損害の賠償責任を負う。

会社の賃金制度としては給与規程に営業手当を全額固定残業代とする旨定められており、会社が固定残業代の支払を主張して元従業員の割増賃金請求を争ったことが不当とまではいえないこと、会社が割増賃金の一部を支払い、未払割増賃金元本額が約97万円にとどまる(うち付加金対象未払額は約66万円にとどまる)こと等に照らせば、会社に対し、付加金の支払を命じることが相当とはいえない。

元従業員の債務不存在確認の訴えについては、第2事件において同一の訴訟物についてその存否の判断がされる結果、確認の利益を欠き、不適法である。

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