医学部教授による退職勧奨に対する慰謝料が認められた例(平成25年6月28日神戸地裁)
概要
被告・大学が運営する大学院医学研究科准教授であり、医学部附属病院血液内科長であった原告が、同医学研究科教授で後に同医学研究科長にも就任した被告から違法な退職勧奨及び就労妨害行為等を受けたとして、被告に対し、民法709に基づく損害賠償として、慰謝料1000万円の支払を求め、
また、原告が、上記の被告の行為について、被告・大学に対し、主位的に使用者責任に基づいて、予備的に国家賠償法1条1項に基づいて、損害賠償として、慰謝料1000万円の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
教授による退職勧奨は,複数回にわたって退職を迫るものであって,1回あたりの面談時間も長時間に及び,執拗かつ継続的で,内容的にみても,侮辱的・脅迫的言辞が用いられており,准教授の被った精神的苦痛は決して小さいとはいえず,また,教授が准教授を血液内科等に配属し,研究・診療を制限したことは,研究者である准教授が長年続けてきた研究を制限するもので,非常に大きな不利益を与えるものといえ,さらに,本件厳重注意処分も,文書として記録上残る形で行われたもので,准教授に対して不利益を与えかねないものであり,准教授とほかの教授との間に,教育指導上の問題があったこと等を考慮しても,慰謝料としては200万円が相当である。
本件名誉毀損行為は,准教授の医師及び教育者としての重要部分を貶める内容であり,医療行為なり指導教育という准教授の職業の本分にかかわる不当な非難であり,これによって被った准教授の屈辱感は決して小さくないが,本件名誉毀損行為が調査委員会における弁明としてされたものであり,本件発言の相手方が調査委員会の限られた構成員で,多数ではなく,伝播可能性も高いとはいえないこと,本件名誉毀損行為により准教授が実害を被ったとは認められないこと等から,准教授が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は,50万円が相当である。
教授の本件各ハラスメント行為は,不法行為に当たるところ,いずれも,医学研究科長としての職務を行うについてのものというべきである等から,教授の本件各ハラスメント行為については,大学が准教授に対して,国家賠償法1条1項に基づきその損害を賠償すべき責任を負い,公務員個人である教授は損害賠償責任を負わないと解すべきである。
本件名誉毀損行為は,大学の調査委員会において,教授が准教授に対してハラスメント行為に及んだか否かの調査の一環としてされた事情聴取の際の教授の弁明の発言の一部であり,本件名誉毀損行為は,医学研究科長としての権限の行使としてされたものではなく,その職務を行うについてしたものとはいえず,大学は国家賠償法1条1項に基づく責任を負わないし,また,教授の名誉毀損行為は,教授の職務権限に関するものとはいえないから,民法715条1項の「その事業の執行について」したものとはいえず,大学は,同項に基づく責任を負わないが,教授は,准教授に対し,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。