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3.3.18_帰国後すぐ退職したら留学費用3,000万円の返還命じられた、、の裁判で思うこと

(ニュース)
みずほ証券株式会社が、社内公募制度で海外留学した労働者に留学費用の返還を求めた裁判で、東京地方裁判所は同社の請求をすべて認め、労働者に3045万円の支払いを命じた。留学に当たり、両者は帰国後5年以内に自己都合退職した場合、留学費用を返還する内容の誓約書を交わしていた。同地裁は5年間の勤務で返済を免除する特約付の消費貸借契約の成立を認定。免除までの期間も不当に長いとまではいえず、労働基準法が定める賠償予定禁止にも違反しないとした。

これについて思うこと。
弊所でもここまで高額ではないにしろ、類似ケースがある。職業上必要な資格、免許を取得するために事業主が100万円(仮)を貸付け、免許・資格取得後2年超の勤務で全額免除、それ以前の退職だと話し合いによって全額を返還するというもの。
ただし、当該免許・資格は業務上かなり役立つものである(資格手当が支給される)が、その取得は絶対的なものではなく本人の自由とし、会社側から強制することはなく、未取得でも不利益取扱はない。

(労基法16条)
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」

過去の裁判例では費用の返還請求を肯定したものと否定したものがある。
肯定したものの代表例は長谷工コーポレーション事件
留学内容が業務と直接の関係がないビジネススクールでの学位取得であり、留学先も本人の自由意志で決定できる。 さらに留学先があらかじめ指定されていたわけではないとして野村証券事件・明治生命保険事件もある。

否定例の代表格は新日本証券事件である。
留学先での専攻学科も会社の業務に関連していることが義務とされ、また留学終了後はその取得した学位を生かした業務に従事するというもの。 留学先、研修先の決定も会社指示によるOJT研修と実質異ならない性質があるという富士重工業事件

これらを見ると海外留学が「業務の性質を有するか否か」という点に帰結する。
そもそも業務の性質を有するなら、その費用は会社が負担すべきものだし、そのうえ一定期間内での退職を理由に返還請求することは労働基準法16条に違反することになりかねない。
業務の性質を有さず本人の自由意志に基づくものであるならば、その費用は本来労働者が負担すべきものであるが、それが高額であるがために、会社が一旦それを貸し付けて一定の期間継続勤務した場合には、その返還を免除するというような事は契約として妥当であろう。仮に早期に退職したとしても、業務の性質を有さず本人の自由意志に基づくものであるのだから、退職後も契約に従い返還し続ければいいだけなのだ。

さて、みずほ証券の海外留学は業務の性質を有しているのかどうか判決文を読んでいないので何とも言えないが、いまではグローバルでの活躍し、海外駐在もなんなくこなす人材を必要とする業界であることや、あまりに高額にすぎることから自己啓発など業務と無関係で費用返還の誓約書を差し入れることは通常考えがたい、留学目的が全く業務の性質を有さないとは言い切れず、また帰国後の業務の遂行とも全く無関係とはならないのではないかと勝手に考えている。

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