見出し画像

東洋酸素事件(昭和42年10月30日横浜地裁川崎支部)

被告会社が原告らに発した所属変更は、就業規則で組合の同意を得る必要が定められている「転職」ないし「職場の変更」にあたるとして、組合の同意のない命令は無効でこれに従わないことを理由に支払われなかった賃金の仮払を求めた事例です。

結論:却下

原告らはいずれも本件業務命令が発せられた昭和42年2月26日の当初から命令に従わず、所属係に変更があったにもかかわらず指示された係に移動せず、また、勤務直に変更がない者でも具体的作業指示に従っていない事実が疎明される。

原告らは、従前どおり出勤して労務を提供しているというが、右業務命令に従った労務の提供がない以上、従前どおり出勤した一事をもって、直ちに債務の本旨に従った労務の提供があったということはできない。

従って、前記業務命令を無視し、命令前と同様にした労務の提供を債務の本旨に従った労務の提供であるとして、これに対する賃金の支払を求める本件申請は、被保全権利たる賃金債権の発生を認められず、その疎明の不足を保証をもって補わせるのは相当でない。

従来、被告会社においては「転職」とは職種の転換を意味するものと解し、たとえば、職種を指定して採用する場合(タイピスト、電話交換手、自動車運転手、小使等)は、これらをそれぞれ一つの職種とし、その他の場合にあっては、現場係(生産係)と事務係(管理係)を各一つの職種とみて、これら相互の移動、変更を「転職」として取扱ってきたこと、また「職場の変更」とは、実際の就業場所の変更(たとえば同一課内の係の変更)というよりは、むしろ同一事業所内における職制上の区分に従った所属変更を意味するものと解し、たとえば総務課から労務課へ、製造一課管理係から同二課管理係への配置替えの如く課の変更を伴う場合を「職場の変更」として取扱ってきたことがそれぞれ疎明され、右の解釈、取扱は妥当なものと認めることができる。

しかし、原告らに対する本件業務命令の内容は要するに、製造二課内生産係相互間における所属係または勤務直の変更であるところ、就業規則の解釈によれば、右変更は「転職」または「職場の変更」のいずれにも該当しないことが明らかである。

従って他に右変更について組合の同意を要する旨の就業規則や協約等の存在が認められない本件においては、被告会社が組合の同意を得ることなく本件業務命令を発したとして、なんら違法、無効の点は存しない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?