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京都信用金庫事件(平成14年10月30日大阪高裁)

預金又は定期積金の受入れ・会員に対する資金の貸付け等を業とする信用金庫Yの従業員であったXらが訴外株式会社Aファイナンスへの移籍出向に際してなされた移籍出向期間満了時のYへの復帰の合意に基づいて、Yに対し、それぞれ移籍出向期間の満了に伴いYの従業員に復帰したとして、その雇用契約上の権利を有することの確認を求めたケースの控訴審で、一審と同様、Xの確認請求が認容され、Yの控訴が棄却された事例です。

結論:棄却(上告)

本件確認証は、昭和50年に発出された大蔵省の指導により信用金庫の関連会社の整理が進むなかで、それまで在籍出向であった者も移籍出向とされるようになっていったが、これに対する労働組合的存在であったY信用金庫職員会議の要求に応じ、移籍出向ではあるものの、あたかも在籍出向のごとき身分を約束するものとして本件確認証が作成されるに至ったものであること、
そして、被控訴人らと同様に昭和63年にAファイナンスに移籍出向をしたうちの4名の者は控訴人に復帰したが、それは本件確認証と同様の確認証による約定に基づくものであることが認められ、これらの事情を総合すれば本件確認証の趣旨は、被控訴人らによる控訴人への復帰について申し出があるにもかかわらず、期間の延長について三者間で協議がされ、控訴人による理由の説明がされなければ、本件確認書ただし書等の適用除外事由が存しない限りは、移籍出向期間の満了により移籍出向という効果がなくなり、被控訴人らは移籍出向前の状態である控訴人の職員に復帰するという趣旨の約定であると解するのが相当である。

そして、このような確認書が作成されるに至った経緯に、Aファイナンスが経営困難になった場合の出向社員の人件費についての支援に関する覚書でも移籍出向とされていることに照らすと、確認書が作成されたことをもって移籍出向が在籍出向に変化するものではないと解するのが相当である。

本件確認証には明記されてはいないものの、雇用契約の性質上、被控訴人らが、その出向中に被控訴人らと控訴人間の信頼関係を破壊したことにより、控訴人において、被控訴人らが復帰したのちの雇用契約を維持することが困難となった場合には、信義則上、控訴人として被控訴人らの復帰を拒否しうるというべきである。

そして、信義則上控訴人が被控訴人らの復帰を拒否しうるのは、被控訴人らが、その悪意又は重大な過失により、被控訴人らとの間の信頼関係を破壊し、雇用契約を維持することが困難な状況を作出した場合であると解するのが相当である。

出向は、通常出向先企業が出向させた企業の子会社であるなど、その影響下にあり、したがって、両者の関係が円満な場合に、その人的支援や影響力の保持などを目的として行われるものと解され、その限りにおいては、出向を命じられた者がいずれの企業への利益に沿った行動をとるべきかなどという問題は生じない。

これと異なり、両企業の間で、出向先企業が出向させた企業の影響下から離れ、さらに両者間に対立関係が生じた場合には、出向の基礎が失われたというべきであり、出向させた企業としては、その時点で在籍出向であればこれを解消し、移籍出向の場合であっても、出向をうち切ることを前提として、出向者に対して、今後の就労先の意向を打診すべきであろう。特に、本件確認証が存することを考慮すれば、被控訴人らに対して、そのような措置がとられるべきであったと解されるが、控訴人はそのような措置を全く講じなかった。

控訴人は、出向させた企業と出向先企業とが対立する場合も、出向が継続している以上は、その従業員は、出向先企業への忠誠ではなく、出向させた企業への忠誠を尽くすことが求められると主張するが、それは両企業が対立関係にあることを無視したもので、特に移籍出向の従業員との関係では、出向先企業との雇用契約上の責務に反するとすれば懲戒の対象となり得ることになり相当でない。

また、被控訴人らは、Aファイナンスの取締役であったのであるから、同会社に対する忠実義務及び善管義務を負っているのであり、控訴人に対してそのような義務を負っているのではなく、その間における同社の経営に対して商法上の責任を控訴人に対しても負うべき場合が存するとしても、それはあくまで、債権者の一人である控訴人への間接責任に止まるのである。

これらの点を併せ考慮すると控訴人の前記主張は採用できない。

以上からすると、信義則上、控訴人が被控訴人らの復帰を拒否しうるような被控訴人らと控訴人間の信頼関係を破壊するような事情は存しない。

したがって、被控訴人らには、本件確認証により移籍出向期間満了時に控訴人へ復帰したものというべきである。

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