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学校長に対する懲戒免職処分、退職手当不支給処分等取消請求事件①(平成30年9月25日千葉地裁)

概要

千葉県教育委員会に採用され、市立中学校校長であった原告が、同校に勤める女性教諭に対し、自家用車内でわいせつな行為をしたことが、職員等に対する信用を失墜させ、かつ、全体の奉仕者としてふさわしくない非行に該当するとして、同教育委員会から地方公務員法29条1項1号及び同法29条1項3号に基づく懲戒免職処分及び退職手当等全部不支給処分を受けたため、本件各処分について、事実誤認や手続の不備、量定不当を主張して、それらの取消しを求めた。(千葉県・千葉県教委事件)

結論

一部認容、一部棄却

判旨

元校長と女性教諭との関係性等によれば,女性教諭において,元校長からキスや胸部に触れる等などの身体的接触を受けることは黙示的にすら許容していたとは認め難いことからすると,女性教諭に受動的な同意があったとは認められず,確かに,女性教諭は,本件非違行為の際,元校長を突き飛ばすなどの行為はせずに,体を硬直させていたにとどまるものであるが,人気のない駐車場に止められた密室に近い元校長の車両内で,上司である元校長から突然に抱きつかれて,キスをされる等の性的行為を受けたことからすると,そのような想定しない事態に困惑し,また,元校長に対する恐怖心等や穏便に済ませたいという気持ちから,その場では明確に拒絶することができなかったとしても不自然ではなく,元校長の車から降りなかったことや,携帯電話で助けを呼ばなかったことについても,同様に不自然ではないこと等から,本件懲戒免職処分が,本件懲戒事由に事実誤認があるために事実の基礎を欠くのにされたものであるということはできない。

本件非違行為が行われた時間は一定時間継続しており,その態様も悪質であって,軽いものとみることは相当でなく,元校長が本件非違行為に及んだ動機も,管理職としての自覚に乏しく,厳しい社会的な非難に値するものであり,また,元校長の地位・職責についてみても,元校長は,本件中学校の校長としての職責を負う立場であって,本件非違行為に及んだその責任は重大であり,他の教職員及び一般社会に与えた影響も大きいこと等から,本件非違行為について元校長に対する懲戒免職処分を相当と判断したことは,社会観念上著しく妥当を欠くものではなく,裁量権の逸脱又は濫用があったということはできない。

本件非違行為については,本件中学校の校長としてふさわしくない行為として,懲戒免職処分を避け難いものであるとしても,他方で,元校長の教職員としての長年の勤続の功績を皆無とし,過去の勤務に基づく賃金の後払的性格の部分をも含めて,その退職後の生活保障を全て奪い去るに値するような重大な非違行為であるとまでは直ちに評価し難いから,元校長の退職手当等の支給については,大幅な減額は想定され,本件不支給処分のうち退職手当等2228万9628円の4分の3の額である1671万7221円を不支給とした部分は,社会観念上著しく妥当を欠くということはできないが,この額を超えて,その4分の1の額である557万2407円も不支給とした部分は,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであって,違法であり,本件不支給処分のうち退職手当等557万2407円を不支給とした部分を取り消すのが相当である。

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