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九州惣菜事件①(平成28年10月27日福岡地裁小倉支部)

概要

会社を定年退職した従業員が、会社にに対し、主位的に、会社との間で再雇用契約を締結したのと同様の法律関係が成立している旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年4月から判決確定の日まで毎月15日限り退職前の賃金額の8割の賃金の支払を求め、予備的に、会社が、再雇用契約へ向けた条件提示に際し、著しく低廉で不合理な労働条件の提示しか行わなかったことは、従業員の再雇用の機会を侵害し、不法行為を構成する旨主張して、損害賠償を求めた。

結論

棄却 →  控訴

判旨

元従業員は、平成27年3月31日をもって会社を定年退職したものであり、結局のところ再雇用にも至らなかったのであるから、元従業員が会社との間の労働契約上の地位にあると認めることはできず、元従業員の労働契約上の地位確認を求める請求は理由がない。

本件提案は、元従業員を期間の定めのある労働契約に転換するものであるから、定年前後の労働条件の比較において、労働契約法20条等が問題になるものと考えられ、元従業員の定年直前の業務内容も、再雇用後のそれと概ね同一であるということができるが、再雇用後は、担当する業務の範囲にはそれなりに差異が存するということができ、また、本件提案は、定年前の賃金を時給に換算すると1944円程度であったところ、これを時給900円へと削減するものであるが、元従業員は同じ部署の部長に次いで賃金が高く、業務量や業務内容、役職等に照らしてみれば、元従業員の定年前の賃金は、年功序列的色彩が強く、必ずしも担当する業務内容等に即したものとはいい難いから、定年退職を一つの区切りとして、担当する業務に即する形で賃金の見直しを行うことには相応の合理性が存するというべきであること等から、本件提案における労働条件が、同条に反する不合理なものと認めるには至らない。

元従業員は、本件提案は高齢者雇用安定法の趣旨に反するもので、公序良俗に反すると主張するが、同法は、65歳未満の定年の定めをしている事業主に対して、65歳までの安定した雇用を確保するための措置として、一定の公法上の義務を課すものであるが、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるものではなく、また、本件提案のようなパートタイムでの再雇用は、会社においても前例のないものであったが、他方において、定年前に元従業員が担当していた業務については、新たな求人をすることなく、既存の従業員で賄うことができているのであるから、元従業員の定年前と同一業務での再雇用を確保するために、元従業員の勤務時間数を減らして提案することも不合理とまではいえず、元従業員の定年後の生活状況等や高年法の趣旨を踏まえても、本件提案が、会社の合理的裁量を逸脱したもので、公序良俗に反するとまでは認められない。

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