見出し画像

業務命令が業務命令権を濫用したものとして無効であるとはいえないとして、慰謝料等請求が斥けられた事案(令和3年5月17日東京地裁)

概要

学校法人との間で労働契約を締結し、被告が設置する大学において非常勤講師として勤務していた原告が、講義中に学生に対してハラスメント行為をしたなどとして、指定された期間において同大学において講義をしてはならず、かつ、同大学敷地内に立ち入ってはならない旨の業務命令を受けたことから、被告に対し、同業務命令は、契約上の根拠なくされたものであるか又は権限濫用のため無効かつ違法であり、これによって大学教員として学生に教授する利益などを侵害され、精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求めた。(学校法人中央学院事件)

結論

棄却

判旨

各行為は,男性教員である元教員が女子学生を含む学生に対し性的な事実関係を尋ねたり一方的に身体接触したりしたものであり,在学していたA及びBは,元教員に恐怖感や嫌悪感を抱き,元教員の授業に出席できなくなっただけでなく,元教員と会う可能性がある大学への登校自体を避けたいと感じていたこと,大学の在籍学生は約3000人程度で比較的小規模の大学であることや教員及び学生はおおむね最寄り駅からスクールバスによって通勤及び通学している立地状況であり,通学中や在校中にA及びBが元教員と会う可能性が低いとはいえないことなどの事情を総合すると,元教員にそのまま授業を担当させ,大学への自由な出入りを許容した場合には,A及びBは,元教員に対する恐怖感や嫌悪感から,元教員が担当する授業に出席できないだけでなく,大学への登校自体ができなくなる現実的な可能性があり,その場合には,両名の大学の卒業が困難となる可能性もあったものであるから,良好かつ適切な就学環境を提供する義務及び安全配慮義務を負っていた法人としては,被害者と加害者が再度接触しないための措置を講じ,両名が大学に通学できない事態を防止し,両名に就学上の不利益が生じないよう配慮する必要性があったものといえること等から,本件業務命令が業務命令権を濫用したものとして無効であるとはいえず,また,本件業務命令に不法行為が成立する程の違法性があったと評価することもできない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?