医療法人貴生会事件(令和2年1月16日大阪地裁)
概要
病院等を開設する被告法人の従業員であった原告が、被告から解雇されたことについて、同解雇は無効であり、また、被告との間の合意退職は被告の看護部長の強迫によるものであり、無効であると主張して、被告に対し、主位的に、労働契約に基づき、未払賃金及びこれに対する遅延損害金、予備的に、被告による解雇が故意又は過失により原告の権利又は法律上保護に値する利益を侵害するものであるとして、不法行為に基づき、同額の支払を求めた。
結論
棄却
判旨
1.元職員の看護部長が退職願を書くよう求めて強迫した旨の主張を裏付けるに足りる証拠がない一方で,本件訴訟に先立つ労働審判手続申立ての際,元職員は,合意退職が争点となることを予想していたこと,医療法人が労働審判手続の際にも本件訴訟と同様の退職願作成の経緯を主張していたこと,労働審判期日において,労働審判員から,退職願作成に当たり,看護部長が大きな声を出すなどしたことがあったのかと尋ねられた際,元職員がなかった旨回答していたこと,その後,元職員は,本件訴訟において,訴状に代わる準備書面及び第一準備書面を提出しているものの,本件第2回弁論準備手続期日に陳述された第二準備書面に至るまで上記供述部分に沿う主張をしていなかったことが認められること等から,元職員の退職の意思表示が看護部長の強迫によるものとは認められず,本件労働契約は,平成30年2月9日に合意によって終了しているから,同日の合意退職が無効であることを前提に,平成30年2月以降の未払賃金の支払を求める元職員の請求には理由がない。
2.元職員の権利又は法律上保護に値する利益侵害の有無及び医療法人の故意又は過失の有無について,本件労働契約が合意によって終了したものであること,合意退職につき,看護部長の強迫があったとは認められないから,元職員が医療法人を退職するに当たり,元職員の何らかの権利又は法律上保護に値する利益が侵害されたとは認められず,また,医療法人の故意又は過失があったとも認められないから,医療法人の不法行為は成立せず,元職員の損害賠償請求にも理由がない。
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