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■生きがいはどこに <事例Ⅴ>安来節にはまった女性

この50代の女性にお会いしたのは5年前。ある講座でご一緒して、話をしているうちに「わたしいま、安来節を習っているの」と言い出した。私はびっくりして「あのドジョウすくいの?」と思わず聞いてしまった。このご婦人が短い割りばしのようなものを鼻に突っ込んで踊るなんて、想像もできなかったからである。いまは割りばしではなく5円玉を鼻に充てていると言う。
「なぜ、あなたみたいな方が安来節を習う気になったの?」と、興味があったので訊いてみた。
 最初、友達に面白い会合があるから一緒に行こうと誘われた。時間もあったので暇つぶしに、どんな会合か知らずに行ってみることにした。行ってみると安来節の定例会みたいな催しで、初めて友達が安来節の会員だと知らされた。友達も人が悪い。最初から安来節の会合だとわかっていたら、私は絶対に行かなかったのに。どう考えても自分が安来節を踊るなんて考えられなかったからである。当然興味もなかった。そんな自分がどうして安来節を習うようになったか経緯を話してくれた。
会場では私が女性だと言うこともあり、いろいろな人が声をかけてきた。
 やはり女性は珍しいみたいだ。最初は「私は習うつもりはない」と答えていた。
 逆に「なぜあなたは習っているのですか?」と何人かに質問してみたそうだ。
 70代の男性は
「来年喜寿を迎える。そのお祝いに親戚が集まってくれることになっている。その時にみんなに披露をして驚かせたい」と嬉しそうに話す。
 50代の男性は
「自分は歌もうまくない、かといって人前で披露する特技もない。だから、一つくらいは宴会でみんなをあっと言わせるような特技を持ちたい」と1年近く習っていて、まだデビューはしてないと言う。
 私を引っ張ってきた50代の友人女性は
「安来節を女性が踊るのは意外性があるでしょ。それから上達が進級によって目に見えてわかるので励みになるわ。あなたは綺麗だから、そのギャップできっと受けるわよ」
 周りの男性陣からは
「そうだ、そうだ」と声が上がった。
 なんとなくおだてられ悪い気はしなかった。その場では会員になる返事はしなかったが、友達もいる安心感から、面白くなかったら辞めればいいくらいの気持ちで少し通ってみることにした。

実際にやってみると、意外に大変。これはダイエットにいいなと思ったくらいハードな踊りでへとへとになった。
 それでも何回か通ううちに、だんだんコツを覚え、上手になったと周りの人に褒められ、モチベーションも自然と上がる。今では初心者3級から始まり2級に進級したと言う。会員の前で披露し、褒められ、進級する。専業主婦だったEさんは今までこんな達成感を味わったことがなかったそうだ。集中して練習する時間の充実感が結果に結びつく。「もっと上達して上の級を目指したい、そしてみんなを驚かせたい」と自信そして自慢とも思えるような話しぶりだった。
話を聞いた後でもまだ私の目の前にいるEさんが、安来節を踊るなんて信じられない。
 家族や周りの人は知っているのだろうか。きっとみんなびっくりするだろうな。それがEさんの喜びでありサプライズなのかもしれない。
 デビューはいつするのかな、どんなところでするのかな。ぜひ立ち会ってみたいものだ。

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