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1年ぶりの再会

資格を取って再就職した人、大学で学生の就職支援をしている人、ハローワークなどの公共機関に携わっている人など、養成講座の同期数名の消息はわかっていた。その他の人はどうしているのだろうかと、ぼんやりと考えていた。
そんな時、養成講座の同期でマドンナ的な存在だった桜井さんからメールが届いた。北海道出身の30代半ばの溌剌とした素敵な女性で、養成講座の中にあって明るく愛想良しの人気者であった。
私が言うことではないが、残念ながら既婚者であった。私の入社当時の上司は、女性社員のことを「結婚するまではみんなのものだ」なんて滅茶苦茶なことを言っていたのを思い出した。(これって今の時代ならハラスメント?)

メールの内容は「このたび、水道橋駅近くの大学で学生の就職支援の仕事をすることになり、契約社員として働くことになりました。近くに来た時にはぜひ声をかけて下さい」という内容だった。
動機は不純でも一度は学生の就職支援の仕事を志した私である。彼女がどんな仕事をしているのかを訊きたいと思い、お言葉に甘えて早速連絡をした。2日後に彼女の職場の近くで一緒にランチをすることになった。
仕事の内容を訊きたかったのはもちろんだが、久しぶりに彼女の溌剌とした姿を拝見し、元気をもらおうと思ったからである。

当日、彼女は約束の時間に15分程遅れてやってきた。思っていた通り元気一杯、髪を振り乱して走ってきた。
「そんなに走らなくてもいいのに、どうせこっちは暇なのだから」と思いながら見ていた。
 ハアハアしながら
「ごめんなさい、お久しぶり」の一言と、期待していた元気そうな笑顔。
 学生とのカウンセリングの時間は一応決まっているのだが、大抵予定した時間よりオーバーしてしまうそうだ。そんなわけで時間が押してしまい、ゆっくりランチをすることができなかった。
短い時間だったにもかかわらず、仕事の内容や大変さなどの話を訊くことができてよかった。私はというと、たいした近況報告もなく、つい「資格は取ったものの……」と自虐的な愚痴話をしてしまった。
彼女は黙って聴いていた。
そして
「そうだ私の大学で学生のカウンセラーをやってみない? 紹介するわよ」
と私に勧めてくれた。そう言われても私はもうすぐ還暦を迎える。女子大で断られたトラウマもある。素直にお願いしますとは言えなかった。
他にも何か言われたような気がしたのだが思い出せない。午後のカウンセリングの時間が来たので彼女は急いで大学にもどって行った。
 彼女との1年ぶりの再会が今後の私の人生に、大きく影響を与えていくとは、この時点では思ってもみなかった。

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