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■生きがいはどこに<事例Ⅰ> 仕方なく応じた元上司の誘い

Aさんは定年退職して6か月、やることもなく家でぶらぶらしていた或る日、元会社の上司から電話があった。
 東京近郊の街のスナックで、シャンソンのリサイタルを仲間と定期的に行っているので来ないかという誘いであった。
そういえば、その上司はフランスでの海外勤務が長く、滞在中にシャンソンを習っていたということをAさんは聞いていた。Aさんはカラオケスナックで演歌は歌うけれど、シャンソンには全く縁もなく興味もなかった。しかし現役時代にお世話になった元上司からの誘いである。仕方なく1回だけと思い、誘いに応じた。

当日、スナックに行くと、雰囲気の良い照明の中で、周りの人との会話が弾み、ことのほかお酒がおいしく感じた。シャンソンのことはよくわからないが、お酒を飲むにはとても心地の良い音楽だと思った。
お酒の好きなAさんはすっかり非日常の雰囲気が気に入ってしまい、定期的に行なわれるリサイタルを心待ちにするようになっていた。

そして、スナックに通うようになって1年近く経っていた。驚いたことに演歌しか興味のなかったAさんは、現在六本木のシャンソン教室に通っていると言う。全くの想定外のことであり、まさに60の手習いである。
 なぜそんなことになったのかと尋ねたら
「全く自分の知らない世界がとても新鮮だった」
「新しいことをしてみたくなった」
「みんなを驚かせたい、みんなを楽しませたい、自分も楽しみたい、カラオケも同じだが歌うことは気持ちが良い」
「みんなとシャンソンを通じてつながりたい」
 と以前とは全く違う表情で話す姿を見て、まるで別人に感じた。

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