達成感と自己肯定感

だがこの資格を取得するためにはいくつか問題があった。毎週土曜日9時~18時まで3か月間養成講座に通学しなければならない。
 その費用は取得まで40万円くらいかかる。一次試験の筆記試験と、二次試験のロールプレイ、さらに面接試験があると知って、正直腰が引けた。1回で受からなければさらにお金がかかる。
養成講座に通うのはいいとしても一次試験の筆記試験が最大の難関である。しかしカウンセラーが自分に向いていると思い始めた私は、この資格を取得することを当面の目標として、とりあえずやってみることにした。
妻に話をすると、私が何かやろうとしていることに理解を示しながらも
「今回は大丈夫でしょうね」と念を押された。
 最初は何のことかわからなかったのだが、妻が言うには、
「前に一度何かの資格を取ると言って、途中で挫折して受講料を6万円も無駄にしたのよ」と金額まで指摘された。
 そういえばそんなことがあった。でもよく覚えているなあと感心すると同時に少し怖くなった。今回は金額も大きいし途中で投げ出すわけにいかない。妻には、はっきりと
「今回は大丈夫だ」と宣言した。

養成講座には20代~60代まで多様な年齢の方が20名くらい在籍していた。
 一次試験前に講師からは
「年齢からみて、若い人の2倍くらい勉強しないと合格は難しいですよ」
 と冗談半分に言われた。何しろテキスト6冊分をほとんど丸暗記しなければならないと知って、「そうだろうな」と妙に納得してしまった。
講師に言われた通り筆記試験に向けた勉強は、困難を極め大苦戦した。とにかく覚えることができないのだ。何度も挫折しそうになった。そのたびに妻の顔を思い出す。
 図書館の読書室や近くのカフェに通い、何度もテキストをノートに写す作業を繰り返した。そのかいあってというか、奇跡的に一次試験の筆記に合格できた。その後の二次試験も最低ラインではあったが何とか合格できた。
苦しかった。この年になってこのような経験をするなんて。合格した瞬間、一生懸命覚えたはずのテキストの内容は、ほとんど忘れてしまった。
 自分でも合格することは無理だと思っていたのだから、講師も養成講座の仲間も、口には出さなかったが、びっくり、想定外と思っていたに違いない。

養成講座で同じ目標に向かって様々な年齢、職業の方と一緒に学び、過ごした3か月間は、楽しく充実していた。
そしていまだにお付き合いさせてもらっている仲間がいる。この講座を受講したからこそ知り合えた仲間である。
この年になると同年代以上の仲間はいても、年下の仲間はなかなかできないし、知り合う機会もない。退職後は世代間交流が途絶えてしまうのである。目標を持ち達成することは困難も伴うが、その先に楽しいこともあるのだと改めて知った。

1枚の求人チラシが導いたキャリアカウンセラーへの道、久しぶりに味わう達成感。
 早速、例の女子大に電話を入れると、すでに後任のキャリアカウンセラーは決まってしまい、募集は当分ないとのことであった。
「えー! そんなー」
せっかく苦労して資格を取ったのに。私の描いたプランは水泡に帰してしまった。
 やはり不純な動機がいけなかったのか。動機が不純だろうがそんなことは関係ない。
 これは年齢ハラスメントに違いない。
そんなことを言っても仕方がない。それよりも資格を取得したことにより自己肯定感とささやかな自信が湧いてきたことは確かである。

 人からの褒め言葉はより自己肯定感が増す。お世辞でも褒められると嬉しいものだ。目標を持ち達成した時に「よくやった」と自分を褒めてあげたい気持ちが自己肯定感につながる。人から共感され、認めてもらえることで、さらにポジティブな気持ちになれ、やる気が起きる。

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