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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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2015年8月の記事一覧

愛していた

思い出さないで欲しいのです
思い出されるためには
忘れられなければならないのが
いやなのです 
              寺山修司

 船の上であなたと語った午後、故郷がいやに遠く見えた。風が強く吹きつけた。頬につめたかった。
 信号が点滅してやがて赤に変わり、それからまた青がくる。繰り返しは永遠のようだった。私は三度目の点滅で向こう岸に渡った。見送るように赤に変わった。それきりもう青には戻らな

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高気圧の夜に

 こんなに素敵な風景が見える窓はほかにない、きっとここはぼくだけの城、いろんな名前のお酒があって、いろんな形のグラスがあって、いろんな表紙の小説があって、思い出、それからロマンスの火傷跡。
 ビデオテープにうつっていたのは在りし日の春、消え残った夏、足踏みした秋、迷い込んだ冬、一重瞼の少女が笑い、夢もてあまして走り転げる。ぼくは大人のふりをして、本当はいちばん子供だった。それでいて気がついたら、大

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バーカウンターは僅か三席

 長い夢を見ていた……。愛する言葉たちが頭上で宙返りをしてゆく……。
 白昼の校庭で、つめたく閉ざされた校舎を前にひとり駆け抜けた。プールの青い艶めきが頬に飛沫を寄越した。時計塔でぴいろろ鳴いた、鳶の翼に載って連れ去られてしまいたかったあの頃。物憂く窓越しに空を見て、机の傷に歴史を見て。かつかつと耳の傍を過ぎて行ったのは、黒板に向かってひたすら唾を吐く教師の右手の白いチョーク。そうしてそれが想い出

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