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すれ違う心④

翔は目を開けると見覚えのないベッドに横たわっていた。

「あれ...ここは...?」

「おはよう。大丈夫?もう放課後だよ。」

天井が見えていた視線を横に向けると萌音がパイプ椅子に座っていた。

「俺...どうしたんだろう?」

「体育の授業の後、倒れて保健室に運ばれたんだよ。」

「そっか...俺...倒れたんだ...。」

「覚えてないの?」

「うん...試合が終わって何か目の前がぼんやりしたと思ったら記憶が無くなってたから。」

「何か不安な事があったら相談してよ。少しでも武藤君の力になりたいって思ってるから。」

「ありがとう。あと...いつも心配掛けてごめん。」

「私は大丈夫だから早く元気になってね。試合も近いんだから。」

「今日は起きた時から調子が悪くて、それでも今日行けば明日は土曜日だからと思って来たんだけどやっぱり失敗だったよ。」

萌音は翔の言葉を聞くと心配そうに微笑んでいた。

「あっ、あと神崎さんと天城君もお見舞いに来てくれたよ。」

「麗と真一が!?」

翔は咄嗟に上半身を起こすと、身体がその反動に耐えられずに身体がつった。「うっ。」と声を出すと萌音は、

「まだゆっくり寝ていた方がいいよ。無茶したら元も子もないよ。」

と優しく翔の両肩を抱いてゆっくりと翔を横にした。

「真一にみっともない所見せちゃったな。」

「心配してたよ、天城君。簡単に倒れる奴じゃないって言ってたよ。」

「そっか。あと少し横になったら今日は帰るよ。筒井もクラブに向かっても大丈夫だよ。」

「今日は武藤君を家まで送る様にキャプテンから言われてるから今日はクラブには戻らないよ。ここで本読んでるからゆっくり休んで。」

萌音は翔が寝ている間ずっと読んでいただろう文庫本を近くの机から手を伸ばして取り、読み始めた。

「...隣に居られると眠れないんだけど...。」

「さっきまでずっと隣に居てずっと寝てたのに?」

「さっきまでは気を失ってたの。」

「それでもキャプテン命令だから離れる事はできないの。武藤君が家に帰るまではね。」

「何かお母さんみたいだね。」

「えっ...。」

萌音は少し顔を赤らめて、

「な、何を言ってるの。これはキャプテン命令だから仕方ないの。それよりも眠れないなら何か話そうよ、ね。」

「病人相手に容赦ないな...でもこんな時じゃないと筒井とはゆっくり話せないから...。」

翔は少し考えた後に話し出した。

「筒井は今、好きな人っている?」

「えっ...ん...今は...いないよ。」

「そっか。実は下級生の子から告白されたんだ。でも俺は今まで女性と付き合った事もなかったからどうしたらいいのかわからなくて。ずっと迷ってた...自分の逃げ道で...。好きっていう意味がわからなくてさ。」

「誰かを好きって事に理由なんているの?恋愛をする時に常にお互いが好きっていう感情はないと思うの。恋愛が始まる時はどっちかの片想いで始まる事がほとんどだと思うんだけど...。それでお互いは付き合っていく中で両想いになっていく。武藤君は向き合わないでいいの?付き合わないとしてもちゃんと向き合っていかないと。」

「...大人なんだな。筒井はモテるから恋愛経験も豊富なんだろうな。」

「わ、私だってまだ付き合った事ないんだから...。武藤君は少し鈍感だからもうちょっと積極的になった方がいいよ。」

「そうかもな...小さい頃から麗から好きって言われ過ぎて恋愛の好きがどんなのかわからなくなったのかもな...。筒井に言われた通りもう少し恋愛について向き合ってみるよ。」

「じゃあまたその恋愛で相談に乗れる事があったらいつでも話して。私、先生に武藤君が目を覚ました事を伝えに行ってくるね。」

「あぁ。ありがとう。」

萌音は保健室から出て行こうとした時に振り向いて、

「逃げちゃだめよ。」

と言い残して出ていった。

翔は目を閉じて萌音の帰りを待った。


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