観月 静香⑥
静香の14歳の誕生日から1ヶ月が過ぎ、2人は昼休みに一緒に食事をしていた。
「ねぇ、静香。サッカーって詳しい?」
唐突に結奈が聞いてきたが静香は運動に関してはいまいちだった。
「体育でやるくらいにしかわからない。とりあえずボールをゴールに入れればいいんでしょ。」
「そうじゃなくて、なんて言うのかな...誰が攻めて誰が守って、パスはどこに出すとか。」
「サッカー選手にでもなりたいの?」
「それも違うよ。最近、サッカー部が盛り上がってて私も見に行ったんだ。1つ上のクラスの武藤先輩っているんだけどサッカーが凄く上手いの。私もサッカーに詳しくなってお近付きになれたらいいなぁ...と。」
「...好きになったって事?」
「...そうみたい。自分でもわからないんだけど練習見てたら応援したくなるの。今日の放課後、よかったら一緒に練習を見てみない?」
「結奈がそこまで言うなら少しだけ...。」
「ありがとう。じゃあ放課後に少しだけ見に行こう。」
放課後に2人はフェンス越しにサッカー部の試合形式の練習を見ていた。
「武藤先輩ってどの人?」
結奈は小さく指差して、
「あれだよ。今、ボール持った人。」
「そうなんだ。でもあの人、あまり攻めたりしないのね。」
「きっと守備寄りのポジションなんだよ。先輩がいる方は先輩が止めてるから危ない場面が少ないの。」
「サッカーって点を取る人間だけが活躍してる様に見えるけどしっかり見ると役回りがちゃんとあるんだね。」
「あっ、またボール取った!やっぱりすごいなぁ。」
それから試合形式の練習が終わるまで結奈は翔の練習を見ていた。
この時からだ。
2人の時間にサッカー部の練習を見る様になったのは。
始めはよかったが時が経つにつれてこの時間が苦痛になってくる。
結奈と2人きりでもっと楽しい事したいのに。
結奈がどんどん私から離れて行く様に思えてしまった。
そして結奈は1人でもサッカー部の練習を見に行く様になってしまった。
私は1人でスーパーの玩具売場に行ってアイドルエデンのゲームをしても結奈と一緒にしていた時の満足感が得られない。
かと言って結奈がサッカー部の練習を見ない様にする策もない。
私の中に先輩に対する憎悪が増していく。
結奈は私だけの物だと思ってた。
『ねぇ、結奈。私をどれだけ見ててくれる?結奈が私を見てくれるなら私は何でもするのに。』
そして私は夢の世界に1人で行く様になり、自分の部屋の中で結奈を創造し、ベッドに押し倒して抱き付いた。
結奈の肌の柔らかさ、髪の匂い、目の輝き、ほくろの位置、プルンとした頬、全てを完璧に創造してもそれは結奈に瓜二つなマネキンと言っても過言ではなかった。
人の心までは作れない。
考えて自分で行動する様には出来なかった。
しかしそれでも構わなかった。
結奈に抱き付くだけで落ち着き、首元の匂いを嗅いでいる時だった。
唇を見た時に、我慢出来ずに自分の意思ではなく勝手に唇を重ねようと身体が動く。あと数センチという所で急な頭痛に襲われた。
私は転げ回りベッドから落ちた。
頭が痛くて視界もままならない。
『せめて結奈の手を握りたい。』
手を伸ばして結奈の手を強く握り、ベッドから引きずり下ろそうとしたが力が入らずに私は夢の世界から消滅したんだ。
次の日、現実世界で目を覚ますと身体の自由が効かない。
自分の身体ではないみたいな程、何も出来ない。
1時間もしたら、とりあえず起き上がる事は出来たが歩くのも辛い。
結奈もあの時、こんなにも辛かったんだと考えた。それでも私の為にあんなに素敵な時間をくれた。
ベッドに再度、横たわって天井を見ながら考えていた。
『私の結奈への好きは「愛してる」の好きなんだ。』
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