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縁の君へ③

正午前、母親はお粥と茶をお盆に載せて翔の部屋のドアをノックした後、部屋に入ってきた。

「お粥作ってきたから食べなさい。」

翔はその時、横になりながらぼんやりと窓を見ていた。外は雲ひとつない綺麗な秋空だった。

翔は上半身起こした。

「1人で食べれる?」

翔は頷くと、

「食べたら後で食器取りに来るからここに置いときなさい。」

母親はそう言うと部屋から出ていった。

お粥の中心には種を取り除いた梅干が2個のっており、翔はそれを潰しながらお粥と一緒に食べ始めた。

梅干の味もしたがお粥に塩も入っていてお粥だけ食べても美味しいものであった。

しかしお粥を食べながらも考えるのは今日のお遊戯会の事。

あれだけ練習したのにこんな一瞬で発表する機会が無くなった上、麗にせっかく教えてもらっても意味が無くなった。

翔はそれを思うと悔しさでお粥を食べながらスーっと涙を流した。

お粥を食べ終えた後はまた横になって目を閉じる。

考えたのは、

『今を過ごすという事に意識があると辛いから眠ってやり過ごしたい。麗に出会うのも辛いからできればもうここに戻って来なければいい。』

そんな考えをしながら意識を無くして眠りに就いた。

どれ位眠っただろう。

次に意識が戻った時、目を開けると隣に麗と真一がいた。

「お熱大丈夫?」

麗はそう言うと翔は額に湿ったタオルがある事に気付いた。

「これは...。」

「お母さんがお熱が出た時はこうすると楽になるって言ってたから。」

「...気持ちいいよ。ありがとう。」

「良かった。また治ったら幼稚園で遊ぼうね。」

「うん。ありがとう。」

麗は手を振ると真一と一緒に帰っていった。

翔はタオルに手を伸ばして麗の事を思っていた。

しかしこの時、本当に言いたかった事が言えずにずっと言えないままの言葉が翔の中で心残りとして残っていた。



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