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ハット法度

内容紹介
『ハット法度』【シナリオ形式】(400字×10枚)

もし掟をやぶってしまったら?

そんなストーリーをテラってみました!

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○ 『プリンセスハット』

   外観。看板。
   店内に女性用帽子の商品が見える。

○ 同店・オフィス

   机の上に多くの女性用の帽子が置かれ
   ている。
   オーナーの内山正弘(三〇)がその内
   の一つを手にとって眺めている。
   竹本早人(三〇)が入ってくる。

竹本「よう!」

内山「?(竹本の方を向いて)何や。またサ
 ボりに来たんか」

竹本「そんな嫌そうな顔すんなや。折角、忙
 しいなか、友が来た、いうのに」

内山「お前の何処が忙しいんじゃ」

竹本「この不景気や。居場所のない外回りの
 営業マンは大変なんや。何処で暇つぶそか、
 考えなあかん。その忙しさがわかるか?」

内山「(鬱陶しそうに)アパレル屋が油ばっ
 かり売ってやんと、服、売らんかい」

竹本「油も今はあんまり売れへんらしいな。
 兄貴がガソリンスタンドやっとるけど」

内山「こっちは、ほんまに忙しいんや」

竹本「ゆりちゃん、暇や、言うとったで……
 変やな。俺を避けたがる時のお前……何か
 隠し事してるやろ」

内山「……」

竹本「女か?女やな!そうか、憧れのダイア
 ナ妃のような、帽子の似合う女が現れた
 か?何でも言え。相談にのったるで」

内山「女のことで、お前には……俺、ええ思
 い出、無いがな」

竹本「何でも助け合うて、許し合うんが親友
 やんけ!なっ!勝負どこ、来てんか?」

内山「……。来週、彼女の誕生日で、プレゼ
 ントしよう、思うて、帽子を作ったんや」

竹本「おっ?どれや?」
   内山が机上の帽子の方に手を伸ばすと、
   店員の村田ゆり(二五)がコーヒーを
   持って、入って来る。

ゆり「オーナー、お店の方に電話です」

内山「すまん(と、店の方へ出ていく)」
   ゆりが竹本にコーヒーを出す。

竹本「有り難う。あいつ、昔から女の趣味が
 変わってるんや」

ゆり「(笑い)そうなんですか」

竹本「この前なんか、梅田のスナックに飲み
 に行ったんや」

ゆり「(笑みを浮かべて)ええ」

竹本「ほんだら、金髪に染めた変な女が来よ
 って、(女の真似をして、勢いよく)私、
 ほんまはフランス人やねん!ほら、髪、黄
 色いやろ。アメリカ人違うねん。私、アメ
 リカ人嫌いやねん。なんか、偉そうやろ」

ゆり「(笑みを浮かべて)……」

竹本「どこがフランス人やねん!大阪弁丸出
 しやんけ、言うたら、(女の真似をして)
 ここは大阪やから、大阪弁やねん。フラン
 スおる時はフランス弁、喋ってんねん!」

ゆり「(笑い)フランス弁……」

竹本「変な女やろ。どう見ても日本人らしい、
 平べったい顔してるんや。けど……あいつ、
 その子に惚れて、暫く通うてたんや」

ゆり「(笑い)フランス弁て……凄く、世界
 が狭いですよね」

竹本「俺、フランス人は、どうもな……。た
 まに買い付けに行くんやけどな」

ゆり「(笑みを浮かべて)ええ」

竹本「絶対、フランス語しか、喋れへんもん
 な。ほんまは英語も喋れるんやで。それで
 も絶対、フランス語しか、喋れへんのや」

ゆり「(初めて聞いた)へぇ……」

竹本「プライド高いんや。あいつら、絶対、
 フランスが日本一や思うてんやで!」

ゆり「(大笑い)フランス……日本一とは思
 ってないですよ」

竹本「おお!(言葉が変な事に気付き、笑
 い)内山の趣味は変わってるんや。あいつ
 と同じ趣味の奴がおったら顔が見たいわ」

ゆり「(笑い)そんな、可哀相ですよ。そこ
 まで言ったら……」

竹本「だから……ゆりちゃんには興味ないん
 や。こんなに可愛いのに」

ゆり「(照れて)……」

竹本「なんで大阪なんか来たん?デザインや
 ったら東京の方がお洒落やろ?」

ゆり「東京は纏まり過ぎているんですよ。大
 阪は凄く、大胆なデザインが多くって、赤
 のブラジャーなんて、東京じゃ、出ないで
 すよ。オーナーのデザインも凄く大胆な色
 使いで、勉強になるんですよ。そのショッ
 キング・ピンクなんて最高ですよ」

竹本「へぇー(コーヒーを飲みながら、ショ
 ッキング・ピンクの帽子を手に取る)」

ゆり「前まで、ウチ、男性用の帽子も置いて
 いたじゃないですか」

竹本「うん(コーヒーを飲みながら)」

ゆり「それでオーナー、一度、すっごく、い
 い帽子を作ったんですよ。ヤマガタ・ブル
 ーのようで、爽やかな水色の中間色で、そ
 こに雲の形でネームを入れたんですよ」

竹本「うん」

ゆり「ナイス・ガイって」

竹本「……」

ゆり「そしたら……なんか、変な外人にばっ
 かり売れて……」

竹本「……(コーヒーを飲みながら)」

ゆり「よく調べてみたら、一字、間違ってい
 たんですよ」

竹本「?」

ゆり「ナイス・ゲイになっていたんです」

竹本「(コーヒを吹き出し、帽子を汚す)」

ゆり「(笑い)GUYなんですよね。UがA
 になっていたんですよ」

竹本「あーっ!帽子……汚してしもうた」

   竹本、ハンカチを取り出して拭くが、
   染み込んでしまっている。

竹本「困ったな……」

   内山が帰ってくる。

内山「すまん、すまん。それでな……」

   竹本、咄嗟にその帽子を他の帽子の
   下に隠してしまう。

内山「この帽子を贈ろう思うてんねん」

   机に近づいて見るが、見当たらない。

内山「あれ?」

   机の上を探す。

内山「結構、ええピンクやと思うんやけど」

竹本「ピンク?」

   下に隠れたピンクの帽子を見つける。

内山「あっ!あった、あった(ピンクの帽子
 に手を伸ばす)」

竹本「(大声で)あーっ!」

内山「(びっくりして振り向き)何や、どな
 いしてん?」

竹本「いや、ちょっと……思い出して、お前
 に話したいことがあるんや」

内山「(笑みを浮かべて)先に、これを見て
 くれや(と、帽子の方を向く)」

竹本「(大声で)おーっ!」

内山「(びっくりして振り向き)?」

竹本「いや、ちょっと……あの、フランス人
 のお姉ちゃん、どうしてんのかなぁ」

内山「知らん。今度は、私はイタリア人や、
 言うて、髪をイカスミで染めとった(と、
 帽子の方を向く)」

竹本「(大声で)わーっ!」

内山「やかましいー!(と、ショッキング・
 ピンクの帽子を持って振り向く)」

   竹本、内山に背を向ける。

内山「この帽子や。ピンク……に、茶色の水
 玉の帽子……?」

竹本「……」

内山「ん?」

   竹本、帽子を持つ内山の手を掴む。

竹本「ごめん!コーヒー零して、汚してしも
 た。綺麗に洗って返す!会社の方で、綺麗
 にクリーニングできるから!完璧に消える
 から心配せんといてくれ!」

内山「……」

竹本「染みも全然残れへん!今週中に綺麗に
 洗って返すから!すまん!許してくれ!」

内山「(怒りに震え、声が次第に大きくなっ
 て)おい!……おい!……おーいッ!」

内山「すまん!」

内山「こんな水玉みたいに……水玉?」

竹本「?」

内山「水玉……水たまり……」

竹本「?」

内山「そうや!スパワイルド行こうか!世界
 の温泉にプールや!今の時期やったら、意
 外性もあるし……」

竹本「?」

内山「いや、デートはな、何処に行こうかな、
 と考えてたんや。水玉で思いついた……」

竹本「スパワイルドやったら、会社で保養契
 約してるから、割引券あるぞ……。そや、
 その割引券あげるわ!」

内山「ついでにフェスティバルパーク……」

竹本「あるある。もちろん、あげる!」

内山「(じっと睨んで)……」

竹本「新世界のふぐ料理屋の割引券もあげ
 る!何でもするから許してくれ!」

内山「まず、帽子は綺麗に洗ってくれよ」

竹本「もちろん!何でも助け合うて、許し合
 うんが親友やて、言うたやんけ」

内山「何でも許し合う?」

竹本「そうや。俺も何も隠さんと、帽子、汚
 したことも打ち明けたやろ?」

ゆり「(小さい声で、笑い)よく言うわよ」

内山「お前も、俺が何も隠さんと打ち明けた
 ら、許すか?」

竹本「そらそうや!親友やがな」

内山「そうか……すまん」

竹本「?」

内山「実は、お前の彼女を奪ってしまった」

竹本「!」

内山「お前は帽子を、俺はお前の彼女を汚し
 てしもた。スパワイルドで洗って来る」

              ―終わり―

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