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誰がルールブックだ!

内容紹介
『誰がルールブックだ!』【シナリオ形式】(400字×25枚)

もし「決められない自分」に決断の時が訪れたら?

そんなストーリーをテラってみました!

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誰がルールブックだ!_page-0001

○ 野球場入場門前(夜)

   幸子に連れられ、植松、山内、豊子が
   来る。

植松「いいんですかね、本当に」

幸子「いいのいいの。別に裁判の話なんかし
 ないんだし」

○ 野球場・場内(夜)

   幸子、植松、山内が一塁側スタンドに
   現れる。プロ野球・川崎シャークスVS
   土佐ドッグス戦のナイトゲーム。

幸子「(グランドを指して)ほら! そこ!」

   二塁の塁審をしている平田。
   打球が二塁ベース上に上がる。
   打球を見上げる平田。
   「インフィールドフライ」の宣告。

○ 居酒屋・店内(夜)
   平田、幸子、植松、山内、豊子が飲ん
   でいる。

植松「しかし長い試合でしたねー」

平田「……」

幸子「でも、さすが! 見事なお裁き!」

植松「あれ、そんなルールだったんですね」

山内「……ワンアウント満塁からセカンドが
 落球したけど、インフィールドフライは宣
 告された時点で打者はアウトになるんだ」

平田「うん」

山内「その後はタッチプレイになる。落球を
 見て三塁ランナーがホームに突っ込んで来
 たからボールが帰って来たけど、キャッチ
 ャーはフォースアウトと勘違いして、タッ
 チしなかったからホームインになるんだよ」

平田「!? 凄い! よくご存知ですね。プロ
 の選手でも知らない人もいるんですよ」

豊子「山内さんも野球、やってたんですか?」

山内「……俺はいい内野手だったんだ。膝を
 壊すまではな。兎跳びって訓練とかで」

植松「ああ、それ。兎跳びって、今はどのス
 ポーツでも禁止してますよ」

山内「日本人の悲しい性てか? イジメと訓
 練、教育、指導の違いが分らねぇ。スパル
 タだの根性だの、無知な上の奴の犠牲にな
 るだけだ。実際、バカな上の奴の保身でど
 れだけの人間が不幸な目に遭っているか」

平田「……」

○ 評議室・室内

   裁判官、裁判員達が入って来る。

幸子「(植松に)少し慣れたのか、凄く活発
 な被告人質問になりましたね」

植松「(幸子に)被告の方から、他に訊きた
 いことは? と言って来るから、ついつい
 乗せられて質問しちゃいました」

   ――裁判官、裁判員達が評議している。

豊子「今のところ、殺意があったと思う人と
 なかったと思う人は半々てことね。ただ…」

   ――悩んでいる平田。

豊子(オフ)「一人を除いては」

幸子「平田さんは名審判ですから。平田さん
 の判断で決るのなら安心です」

裁判長「まだ決めなくていいですよ。論告・
 求刑、弁護人の弁論、それから被告人によ
 る最終陳述が終わってからの評議まで」

平田「……はい……」

山内「名審判さん! あんた、大事なものを
 失い続ける人生だっただろ!?」

平田「!?」

山内「大事な人も失ってばっかり!」

裁判長「裁判員個人のお話はしないで下さい」

山内「また何か失うぞ。決断しねぇからだよ」

裁判長「やめて下さい」

山内「どうせ人生なんか、どっちに転がるか、
 誰にも分らねぇんだ。本当は正解なんか誰
 にも分らねぇんだ。な? 裁判員の皆さん」

   一同、沈黙。

山内「だげど人生てやつは常に決断を迫って
 来るものなんだ! そこから逃げたら……
 人生の方から逃げられて行くんだよ! だ
 ったら選んだ方が正解だって決め付けてし
 まえよ! じゃなきゃ……損なだけだ!」

平田「……」

山内「逆に俺は……失敗も多かったけどよ…
 3回も離婚したけど…素早く決断したから、
 最後は勝ちなんだよ! な!? 豊子!?」

豊子「(照れて)もう……嫌だわ、こんな所
 で」

一同「ええーっ!?」

○ 安居酒屋・店内(夜)

   平田と純子が飲んでいる。

平田「……そうだよな。審判員には元プロ野
 球選手が多い。俺も最初は投手王国に入団
 して……悩んだ結果、内野手に転向した」
 ――一人、豪快に酒を飲む純子。

平田「ところがその決断が遅くて、そこに大
 物がFAで来た……で、足を生かそうかと
 悩んだ結果、外野手に転向した」

   ――ぐいぐい酒を飲む純子。

平田「ところがその決断が遅くて、そこにゴ
 ―ルデンルーキーが来た……で、左殺しの
 打撃を生かそうかと悩んでたら…解雇され
 た」

   ――ぐいぐいぐいぐい酒を飲む純子。

平田「……で、悩んだ結果、その審判も……
 ど、どうかなぁ……柏原。ね? 柏原?」

純子「だ、れ、が、柏原やねん!? えぇ!?」

平田「え?」

純子「(完全に酔っ払っている)ワテのこと
 は、こいさんて呼びなはれ!!」

平田「? こいさん?」

純子「何、ゴチャゴチャ言うとんねんワレ!
 ええ加減にさらさんけぇ!(と、平田の頭
 に酒をかける)」

平田「……!?(何かに気づく)」

○ 法廷

   向き合う江川被告と裁判官、裁判員達。

平田「すみません! 最終陳述の前に一つだ
 け訊かせて下さい! あなたは誰かから虐
 待を受けていましたか!?」

   一同、「!?」となる。
   江川の身体が震え、涙が溢れる。

平田「……」

○ 評議室

   裁判官、裁判員達が評議している。

幸子「多いんですね。こんなこと」

山内「親も子も本気でそれを教育、躾けだと
 思ってんだよ。イジメや虐待だなんて思っ
 てない。思いたくないし、思えねぇんだ」

豊子「では、情状酌量を認めるということで」

平田「うーん……ど、どうかなぁ……」

山内「まだ決めれねぇのかよ!?」
幸子「私達、平田さんのあの最後の質問で決
 めたのよ!?」

植松「もう、いいですよ、どっちでも。平田
 さんが反対しても8対1で決まりですから」

平田「でも……こういう虐待の連鎖って、支
 配する側とされる側っていう構造があって、
 社会的な問題もあるような気がして……」

山内「……」

智美「確かにそういう指摘をされる方もいら
 っしゃるそうです。それはそれで問題提起
 して、情状酌量に込めていいのでは?」

平田「……!」

○ 野球場(夜)

   プロ野球・東京ジャンプVS浪花ジャガ
   ーズ戦のナイトゲーム。東京の攻撃。

アナウンス「4番サード原田」

   原田慶彦(27)が打席に入る。
   主審は平田。
   ――ネット裏から審判部長が見ている。

原田「(平田に)今日、早く帰りたいんです
 よ。デートなんで。ゆっくり、じっくり、
 しっぽり。なんで、チャチャッと頼みます」

   初球――原田が見逃すと、平田は素早
   く「ストライク!」とジャッジ。

原田「え?」

   2球目――原田が見逃すと、平田は素
   早く「ストライク!」とジャッジ。

原田「ええ!?」

   3球目――原田が見逃すと、平田は素
   早く「ストライク! バッターアウト
   !」とジャッジ。

原田「(怒って)どこ見てんだ! バカヤロ
 ウ! こっちは記録かかってんだ!」

平田「(派手なアクションで)退場!!」

原田「何だと!?」

   ――原田、ベンチに連れ戻される。

原田「チキショウ! クソ審判め!」

平田「お望み通り、早く帰らせてやるよ」

○ 野球場外(夜)

   原田の前に純子が現れる。

純子「えらい早いんやね、今日は」

原田「……何でもご馳走しますから」

純子「うん。立ち食いうどんにしよか。私、
 素うどんでええわ」

原田「え? スウドン?」

純子「うん。チャチャッと行こ」

○ 野球場内(夜)

   平田、マスクを取る。

平田「ゲームセット!」

      ― 終わり ―


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