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ボク死亡説

内容紹介
『ボク死亡説』【シナリオ形式】(400字×10枚)

もし生まれ変わる時が来たら?

そんなストーリーをテラってみました!

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○ CDジャケット『アビーロード』
   ジョン・レノンを指す指。
大介の声「これが神様だ」

○ 車中
   清水大介(39)と森谷秀子(29)。
   後部座席に清水勇作(28)。
   秀子が大介からCDジャケットを受け
   取って、見る。
秀子「白のイメージなのね」
   大介が勇作にスーツ・ソフトキャリン
   グケースを渡す。
勇作「やっぱり……神様には成れないよ」
大介「いいから早く着替えろよ」
秀子「(後を振り返り、微笑んで)あんたの
 葬式なんだからね」
大介「葬式か……生きているように見えるの
 に。生きてるって何だろうね」
  秀子が見ているCDジャケット。
   秀子の視線が、先頭を歩く白服のジョ
   ン・レノン、黒服のリンゴ・スター、
   その後を歩くポール・マッカートニー、
  最後に続くジーンズのジョージ・ハリ
  スンと移っていく。
秀子の声「先頭を神様が歩いて……次に牧師
が歩いて……その後を死者が歩いて……最
後に家族が参列する、か……」
大介の声「おもしろいだろ」
   CDジャケット。
   前方に見えるアビーロードの横断歩道。
   秀子が左を向くと白のスーツに着替え
   た勇作がいる。冴えない感じ。
勇作「やめようよ。やっぱりこんなの」
大介「何を言ってんだよ。いくぞ(と、カメ
 ラを持って車を出る)」
秀子「(勇作をじっと見て)この神様、本当
 に幸せにしてくれるのかしら」
   秀子もさっさと車を出る。
勇作「……」

○ アビーロードの横断歩道
   アビーロードのCDジャケット。
   その右に見える、ジョン・レノンを真
   似て横断歩道に立っている勇作の姿。
   車の横で秀子が見比べている。
   車は横断歩道の側、写真に入らない所
   に停めている。
大介の声「もうちょい前……左足が前で白ラ
 インの上!もう少し胸を張って!」
  勇作は大介の指示に従ってポーズ。
   秀子が笑って見ている。
   ファインダー越しに見える、勇作。
   シャッター!

○ 車中
秀子「(大笑い)貧乏ったらしい、景気悪そ
うな神様ね。参列した家族も地獄へ道連れ
って感じ」
勇作「……」
大介「次、黒(と、勇作にスーツ・ソフトキ
 ャリングケーススーツを渡す)」
勇作「(中の黒のスーツを見て)……」

○ アビーロードの横断歩道
   勇作がリンゴ・スターを真似て横断歩
   道に立っている。
秀子「(CDジャケットを見ながら)そこは
さっきのジョンの位置よ!もう少し後ろ!
今度は右腕を前に!はい、胸を張って!」
  勇作は秀子の指示に従ってポーズ。
   カップルが笑って見ている。

○ 車中
   勇作が着替えている。
秀子「お兄さんはどうしてもこっちでスタジ
 オ・エンジニアを続けたいんですか」
大介「ポール・マッカートニーの仕事を手伝
わせて貰うまではね。女房には苦労させて
るけど、文句も言わない。俺は幸せだよ」
秀子「どうして……そこまでポールに拘るん
ですか?勇作も訳が知りたいって」
勇作「……」
大介「よし、せっかくロンドンまで来てくれ
たんだ。特別に教えてあげよう。実は俺、
一度、ポールと会ったことがあるんだよ」
秀子「ええーっ!?ウソー!いついつ?」
大介「一九年前。勇作はまだ九つだったから
知らないだろうけど」
秀子「どこで?」
大介「刑務所の中で」
秀子「え?」
大介「ポールがワールドツアーで来日した時、
大麻所持で逮捕されたの知ってる?その時、
俺も同じ刑務所にいたんだよ(笑い)」
秀子「……」
大介「流行ってたインベーダーゲームを盗ん
だら捕まってしまって……俺がポールに箸
の持ち方教えてやったんだよ。同じ釜のメ
シ、臭いメシを食った仲だよ」
秀子「臭い関係だったんですね(笑い)」
大介「そしたら、ポールは『夢の人』を歌っ
 て聞かせてくれてね」
勇作「!」
秀子「夢の人……ビートルズの?勇作がよく
ライブで歌う曲だわ」
勇作「……」
大介「ポールのお気に入りさ。日本公演でも
やる予定だったのに、中止になったから、
日本では俺だけが聞けたんだ」
秀子「刑務所の中で(笑い)」
大介「ここは日本語でブタ箱って言うんだと
教えてやったんだ。それでポールは好きだ
ったポークを食べるの、やめたんだよ」
秀子「聞いたことあるわ、ベジタリアンだっ
て。信じらんない。あのポール・マッカー
トニーの人生に関わったなんて」
大介「あの時のことが、ポールが環境保護運
動を始めたきっかけなんだよ。まっ、俺は
さしずめポールの恩人てとこかな」
秀子「(笑い)」
大介「なんて言ったら怒られるよね。本当は
ポールとの出会いで俺の方が蘇生したんだ。
一生かけてもその恩返しがしたいのさ」
秀子「勇作は、一生かけても一流のミュージ
 シャンになるって夢……やめちゃうんだ」
  秀子、チラッと勇作の方を振り向く。
勇作「……」
秀子「次、三人目。死んだ本人ね」
勇作「……」

○ アビーロードの横断歩道
   勇作がポール・マッカートニーを真似
   て横断歩道に立っている。
   シャッターの音。

○ 車中
秀子「ポール死亡説なんて誰が考えたのかし
ら。裸足で歩いてる事、左利きの彼が右手
に煙草を持っている事がその理由なんて」
   後部座席で秀子が勇作を着替えさせ、
   シャツのボタンをとめている。
大介「勇作も左利きだった。彼も死んだか」
秀子「……」
大介「その時、ポールも、もし生きていたら
28歳だった」
  車のナンバー『28IF』がCDジャ
  ケットに写っている。
大介「勇作も、28歳か……」
勇作「いつまでも若くないんだ!人生の転機
なんだよ!」
大介「……」
勇作「そりゃ、兄貴は自分の人生を貫いたか
 もしれない!」
大介「ああ!俺は少なからず軌道に乗せた!
夢はまだその途上にある!」
勇作「だけど俺は!……」
  秀子がグッと勇作のシャツの胸元を掴
  んで、俯いている。
勇作「(秀子を見て)……」
秀子「お願い!やめないで!」
勇作「夢だけじゃ食べていけないんだ。それ
 にフォークなんか流行りじゃないし……」
秀子「男の人って、駄目になるわ、夢を捨て
 たとたんに」
勇作「?」
秀子「父もそうだったわ。家計のためだって、
音楽を捨てたの」
勇作「あの……お父さんが?」
秀子「生活は楽になったわ。でもそれからグ
チっぽくなって、いつも暗くて、些細なこ
とで怒りだしたり、暴力ふるったり……」
勇作「今まで、そんなこと一度も……」
秀子「ごめんなさい。言えなかったの。それ
で母は出て行ったの。そんな父に私たちの
結婚を反対する資格なんかないわ!」
勇作「しかし、俺には秀子を幸せにする責任
 があるわけで……」
秀子「だからやめないで!私も働くから……
お金よりも心が満たされていたいの。少な
くとも私だけは勇作のファンだから」
勇作「俺は……決めて来たんだ。兄貴には相
談じゃなくて、報告に来たんだ」
秀子「分かってたわ。だからついて来たの。
 私、家を捨てる覚悟はできてるわ!」
勇作「えっ!?」
秀子「あの時、勇作と出会って、やっと生き
る力を取り戻せたの。お願い。貧乏で良い
から、心を満たしてくれる神様になって」
勇作「秀子……」
大介「お前ももう一度、生きる力を取り戻せ
よ、ミュージシャンとしての。秀子ちゃん
の本当の幸福のためによ」
勇作「(黙って、秀子を抱きしめる)」

○ アビーロードの横断歩道
   勇作がジョージ・ハリスンを真似て横
   断歩道に立っている。
大介「君も生きている!!」
   シャッター!
              ―終わり―


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