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4. 『生物から見た世界』を読んで / 4-1. 連綿と続く、哲学とサイエンスの歴史【ユクスキュル / 大槻香奈考】

4. 『生物から見た世界』を読んで

4-1. 連綿と続く、哲学とサイエンスの歴史

現在では当たり前になっている「物質は各種元素(原子)が結合してできている」という事実。しかし始まりは化学者による発見ではありませんでした。

古代ギリシア、ローマ、イスラーム、および 18 世紀~19 世紀ごろまでのヨーロッパでは哲学的な「四元素」説が支持されていました。意外にも近年まで支持されていたようで驚きです。


四元素とは、この世界の物質は「火」「空気(風)」「水」「土」の 4つの元素から構成されるとする概念です。「万物の根源は何か」というテーマは古代ギリシア哲学者の時代から議論に上がっていたものであり、エンペドクレス(AC490年頃-AC430年頃)に始まりプラトン(AC427年 - AC347年) の説など、歴史とともに進化していきましたが、広く支持されたのはアリストテレス(AC384 年 - AC322年3月7日)の理論です。

四元素説そのものに触れると横道に逸れてしまうので紹介はこの辺にしましょう。『生物から見た世界』の原著発行年は1934年です。しかしながら、本書はまさに古代ギリシア哲学から科学へと発展していった流れをそのまま汲んでいるのです。これには大きな感動を覚えました。


最近では科学分野の分化が進みすぎ、各分野の連携が取りづらくなってきています。自身の専門分野には非常に詳しくとも、その他の分野との繋がりも含めて全体を見て考えられるタイプの科学者が減りつつあることを感じております。
しかしユクスキュルの時代(たったの100年ほど前!)には、まだまだ良い意味で専門性が確立されておらず、様々な視点から物事を観察し・考察する科学者たちが居たのです。

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つい先ほど現状の「分野の細分化」を嘆いたばかりではありますが、かといって現代の知識人に、その系譜を継ぐ人物が見られないわけではありません。哲学者のマルクス・ガブリエル(1980年4月6日 - )や歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ(1976年2月24日 - )などはその好例と言えるのではないでしょうか。


例えばユクスキュルの提唱する「環世界」とマルクス・ガブリエルの提唱する「意味の場」との共通点(※詳細は後述します)。それに対する哲学者スピノザ(1632年11月24日 - 1677年2月21日) の逆説的な定理「神は全能でなければならない」(神を宇宙的に解釈した汎神論で、非常に科学的な説とも言える)。そして民俗学者の柳田國男(1875年7月31日 - 1962年8月8日)が「家」に着目して動物たちの生態を観察したその記録は、まさにユクスキュル的なまなざしに近いと言えるでしょう。


ユクスキュルの文章は(翻訳とはいえ)その他の科学読本に比べて詩的な側面があることがとても印象的でした。科学信奉者になりすぎても、神学に傾きすぎてもあまり良くない。その中間を繋ぐバランス 感覚を養い、そして積極的に別分野にも目を向けてみることで、科学は発展してゆくのでしょう。

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