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シゲル・マツモト インタビュー 【連載】家船参加作家 / CLIP.11-

作品「家船」は多数の作家と地元住民、様々な協力者によって共同制作されている。この作品への参加作家が個人では普段どのような活動や制作をしているのか、レビューとレポート3月号「家船特集」を皮切りに、各人へのインタビュー記事を連載形式で掲載する。

今回はシゲル・マツモトへインタビューを行った。

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シゲル・マツモト @vsnsvsns
会社員/作家 1985年東京都生まれ
2008年 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン哲学科卒業
東南アジアにて育ち、現在は東京にてマーケティング職の傍ら作家活動を行う


(聞き手=荒木佑介・KOURYOU)


ーシゲル・マツモトさんの今までの作品や活動についてご紹介いただけますか?

マツモト:シゲル・マツモトと申します。サラリーマンをしながら作家活動をしています。KOURYOUさんの活動に初めて関わらせて頂いたのは4年前にウェブサイト作品「キツネ事件簿」の英訳をご依頼頂いた時でした。軽めの翻訳を予想していたのですが、その数十倍くらいの量のテキストが届きましたね(笑)。


ー「シゲル・マツモト」は本名なのですか?

マツモト:
いいえ、美術に関わる時の為に使っている名義です。2011年の震災直後、iPhoneを初めて買った時、PCでの設定時に「名前をつけてください」と指示されて、「しげるPhone」と名付けたのですが、iPhoneのカメラは、ガラケーから移行したばかりの当時の自分にとっては画期的で……。ケータイ写真ブログはその当時からずっと続けています。

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http://vsnsvsns.tumblr.com/

マツモト:その当時は主にケータイを使っての制作しかしておらず、本名も気恥ずかしかったので、ケータイの名前を借りる形で「松本しげる」という名義で制作をしていました。2年程前から、シゲル・マツモト名義に変えています。

現在のような活動は2015年の新芸術校第1期に参加したことがきっかけです。とは言え、それ以前も、ひとりで絵を描く、写真を撮る、などの創作活動は行っていました。


ー新芸術校に通われる以前にも何度か個展を開催されていたそうですね。その頃の作品について教えていただけますか?

マツモト:大学の頃の授業中の落書きをきっかけに、ちょこちょこ絵を描くようになりました。

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図1 2006年 ボールペン

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図2  2010年 アクリル


マツモト:
大学を卒業して帰国した後の2009年、近所の喫茶店で描き溜めた絵を飾らせて貰ったのが最初の「個展」でした。

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図3 松本しげる個展 2009年(仙川 TINY CAFE)
撮影=シゲル・マツモト

マツモト:記録がこれ(写真の写真)しかないんですよね…。個展のタイトルも忘れてしまいました。この2年後に、iPhoneを買い、写真を使った作品を作るようになりました。

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図4 松本しげる第二回個展 2011年(仙川 TINY CAFE)
撮影=シゲル・マツモト



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図5 松本しげる個展「逃げる」 2013年(仙川 TINY CAFE)

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図6 作品(アップ) 2013年(仙川 TINY CAFE)
撮影=シゲル・マツモト

マツモト:これらの展示も、すみません、あまり記録がなくて…。iPhoneで撮り溜めた写真をどうにか使いたく。「逃げる」での作品は、出力してカットアップした写真のコラージュです。


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図7 Dictionary倶楽部、喫煙所の壁画 2013年(東京・千駄ヶ谷)
撮影=シゲル・マツモト

マツモト:同じくらいの時期に、友人の紹介で、桑原茂一さんが主催するDictionary倶楽部の喫煙スペースに制作させて頂きました。

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図8 松本しげる個展「Fine Wind, Clear Morning」展示風景 2014年(仙川 TINY CAFE)
撮影=シゲル・マツモト

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図9 「Fine Wind, Clear Morning」 2014年 デジタルコラージュ 紙に印刷
撮影=シゲル・マツモト

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図10 「写真」 2014年 デジタルコラージュ フレスコジクレープリント
撮影=シゲル・マツモト

マツモト:新芸術校に入る前にやった最後の個展がこれですね。この「Fine Wind 〜」て作品、山のモチーフだったり、おそらく初めてパワポで作ったコラージュ作品だったり、今思うとひとつの転機だったのかもしれないです。このあと、仕事を鬱で休んだりと色々あり・・・やっぱりきちんと自分なりに美術の勉強をしたいなと思い、そんな時期に新芸術校のことをTwitterで知り、エイヤと応募しました。


ー新芸術校ではどのような作品を制作されたのでしょうか?

マツモト:確か第1期はとにかく作品制作が多い期で、授業によって色々でした。堀浩哉さんが講師としていらした授業の課題、100枚ドローイングでパワポコラージュを大量に作ったことが、きちんとコラージュに取り組むきっかけでした。堀先生に作品を「マーケティング的」と評されたことに当時カチンときてしまっていたのですが、今思うと、言い当てられて動揺していたんでしょうね(笑)。
そんなこんなを経て、春学期講評会の作品では、自撮りをモチーフに、ニュース/出来事と自分の距離感を測るような作品を提出しました。

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図11 展示風景 (五反田・ゲンロンカフェ)
「煉獄セルフィー 1-80」 デジタルコラージュ コピー用紙に印刷
「平面上の自画像」 デジタルコラージュ キャンバスに印刷
撮影=シゲル・マツモト

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図12 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校 第1期 春学期作品講評会 2015年
作品「平面状の自画像」 データ作成=シゲル・マツモト

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図13 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校 春学期作品講評会 2015年
作品「煉獄セルフィー」一覧 データ作成=シゲル・マツモト


ーその後どのように作品が発展していったのでしょうか?

マツモト:授業の内容も手伝い、色々なテーマに挑戦していました。根無し草のような感覚、どこにいても自分が異物のように思える感覚を手がかりに、コラージュに取り組んでいたように思います。結局、先ほどの個展の「Fine Wind 〜」でもそうだったんですが、これら作品も、東南アジア(シンガポール、マレーシア)で幼少期から10代を過ごしたこと、いわゆる帰国子女という自分の出自を足掛かりにしているんですよね。

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図14 「画像山御来光」2016年 デジタルコラージュ ターポリンに印刷
データ作成=シゲル・マツモト


マツモト:新芸術校の成果展に提出した作品「画像山御来光」では、参詣曼荼羅を下敷きに、幾多の災禍を乗り越えた末に自己がピクセル状に爆散する物語を描こうと試みました。

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図15 「自走するユートピア」2016年 アセンブラージュ(ルンバ、のぼり、他)
撮影=シゲル・マツモト

マツモト:もう一つの作品「自走するユートピア」では、狭くなったインターネットの戯画化を試みました。春学期講評会の作品と同じく、自己と自己が置かれる環境との距離感を測ろうとしていたんだろうなと今となっては思います。
新芸術校修了以降も、展示にお声がけ頂く機会に恵まれ、何度かグループ展に参加させていただきました。「風景地獄」という展覧会には、山が噴火して地表にピンが降り注ぐ場面を飛行機から眺めている絵と、そのピンの模型を出品しました。

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図16 「風景地獄~とある私的な博物館構想~」六本木A/Dギャラリー 2016年
「ピン獄」コラージュ 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:
荒木佑介さんやKOURYOUさんとご一緒させて頂いたのも「風景地獄」が初めてだったかと思います。コラージュ作品には色々と問題含みだった表現があり(「六本木ヒルズは風水的に最悪の立地にあり、呪われている」といった内容の文言など/註:展示会場は六本木ヒルズのテナント)、搬入の現場でそれらを大量のおかわりピンで隠しましたね・・・。

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図17 おかわりピン データ作成=シゲル・マツモト

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図18 「獄ピン」張り子 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:
ピンの模型はこの展示の3年後、共同アトリエ(B.Esta337)のアトリエメイトである友杉宜大さんの手により猫に魔改造されました。

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図19 友杉宣大 個展「The long dive」外観(東京・五反田) 2019年 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:
同じ時期に、五反田アトリエにて新芸術校第1期生シリーズ展示企画があり、同期の弓塲勇作さんと二人展をする機会を頂きました。色々なことに手を出しすぎていて、とても反省の多い展示でした(笑)。

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図20 弓塲勇作・松本しげる二人展「現実の鍋/REAL SHIT」ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ 2016年

「OPP001-アー写」 撮影=恵比寿・不二写真館
(One Phrase Politics(ワンフレーズ・ポリティクス)とは、弓塲勇作、松本しげるの2人からなるラップグループのことである。)

マツモト:「現実の鍋/REAL SHIT」という展示名でした。しかし二人展とは名ばかりで、新芸術校同期の内山智恵さんに生きている蟹の作品を出品頂き、同じく同期の大里さんにもキャプションを執筆頂きました。
会期中、これまた同期の丫戊个堂さん(GP総帥)と弓塲さんと3人で、展示中央の卓を囲んでTRPGイベントもやりましたね…確か「毒入りスープ」というシナリオだったんですが、僕も弓塲さんも敢えなくロストしてクリアは叶いませんでした。

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図21 展示風景とシゲル・マツモトの両親 撮影=弓塲勇作 データ加工=シゲル・マツモト

マツモト:
2016年末から、韓国はソウルに単身赴任していました。そんな折、丫戊个堂さんからお声がけ頂き、「危機の時代のオルタナティブアート」と題された展示に、ロングステイしていたホテルで制作した作品を提出しました。

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図22 「願生高麗国 一見金剛山」パネルにアクリル、コラージュ(ソウル・自室にて)
撮影=シゲル・マツモト



マツモト:ちょうど韓国は朴槿恵政権から文在寅政権に移り変わる時期でしたね・・・。韓国と北朝鮮の国境付近にあるクムガンサンと、日月五峰図をオーバーラップさせようと試みました。5つの山、海、陸地、太陽と月が描かれる、韓国の皇帝の玉座の書割によく使われる図案です。スケジュールギリギリの制作だった為、ちゃんとした梱包資材が確保できなかったんですよね。しょうがないので、ホテルの近所の100均で買った小さい段ボールを二十個以上繋ぎ合わせて無理くり梱包したのですが・・・。

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図23 「願生高麗国 一見金剛山」梱包(ソウル・郵便局にて)
撮影=シゲル・マツモト


マツモト:コレが日本に届いたとの連絡が丫戊个堂さんから来た時は少し感動しました(笑)。しかし展示を現地で見たかった・・・!展示の会期中は、スカイプのテレビ電話で五反田アトリエ会場と谷中の展示会場、僕がいるソウルの自室を繋いでいました。新芸術校第2期の成果展の一部だったんですよね。
同じ時期に、新宿伊勢丹で展示をする機会があり、その時は中央本線画廊ブースの一員としての出品でした。

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図24 「カオス*ラウンジ主催 ISETAN ニューアーティスト・ディスプレイ 中央本線画廊ブース」新宿伊勢丹 2017年
「PostTown Bricolage」・全体(東京・新宿) 撮影=秋山佑太

マツモト: その時もやはり韓国に赴任中だったので、日本にいる中央本線画廊ブース・リーダーの秋山佑太さんにデータをお送りして完全に遠隔からの展示参加でした。コラージュの、「直した空き家に台風直撃」というフレーズが気に入っています。

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図25「PostTown Bricolage」・背景 2017年 データ作成=シゲル・マツモト

マツモト:伊勢丹の展示では背景を担当したのですが、この後、中央本線画廊に「PostTown Bricolage」が移動し、その時は壁画にして頂きました。

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図26 「PostTown Bricolage」中央本線画廊 2017年 撮影=秋山佑太

マツモト:通りすがる子供達に人気だったらしく、前を通るたびに無邪気にはしゃいでくれていたそうです。これも現地で見たかった・・・!2017年の夏に日本に帰国した後、カオス*ラウンジ9『Vapor地獄』に出品しました。

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図27 「カオス*ラウンジ9~Vapor地獄~」ビリケンギャラリー 2017年
「リーマンヘル」コラージュ データ作成=シゲル・マツモト

マツモト:ちょうど転職と制作の時期が被っていたので、働くことに強く意思が向かっていたことが、作品に表れてしまっていますね・・・。YouTubeの動画でよくある、四角い画角の動画の両端に、ボカシのかかった同じ映像が継ぎ足しされる画面を再現しました。
その後、また秋山さんにお声がけ頂き、「ground under」展にグループ「立入禁止」のメンバーとして参加しました。

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図28 「ground under」SEZON ART GALLERY 2017年
「豊かな仮設」部分 コラージュ ターポリンに印刷 データ作成=シゲル・マツモト

マツモト:2017年中頃から2018年の年末までに3回ぐらい転職をしたせいで色々と忙殺されてしまい、制作との距離感が狂いがちだったのですが、そんな中カオス*ラウンジX『ポタティックドリーム2018 実質ヴァーチャルの冬』にもお声がけ頂き、ウンウン唸りながら作ったのが次の作品です(笑)。

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図29 「カオス*ラウンジX ポタティックドリーム2018 実質ヴァーチャルの冬」中央本線画廊 2018年
タイトル不明 木パネルにアクリル、コラージュ 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:タイトルを本当に覚えていない・・・。会場の奥の方のスペースにて、荒木佑介さんの天皇御璽(模型)の隣に展示できたのが嬉しかったです。

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図30 展示風景(荒木佑介作品とシゲル・マツモト作品) 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:僕の作品の右にあるのは、ソウルの写真館で撮った証明写真です。韓国の証明写真にはやたらと盛る文化があり、どうしても自分も撮ってみたくなり、江南の写真館で撮ってもらった写真です。店長のおじさんが目の前でペンタブ+フォトショでガンガン写真をレタッチしていくのは圧巻でした。肌がプラスチックっぽい質感に仕上がるんですよね。
そのまた一年後の冬・・・2019年ってまだ去年なんですね、これは去年末に『芸術動画ヤミ市――冬のマーケット』に参加した際の作品です。

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図31 「現代美術ヤミ市――冬のマーケット」BUCKLE KÔBÔ 2019年
「関東平野」内照式電飾看板 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:
焚火ブースの一員として、外で火の番を一晩中していました。焼き芋300円、作品300,000円というダイナミックな値付けを試みたのですが、やはり焼き芋しか売れませんでした。
内照式電飾看板というメディアはとても気に入っていて、情報の標本みたいなものとして捉えています。なかなかチャンスができないのですが、シリーズ化したいです。

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図32 展示設置前 撮影=シゲル・マツモト

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図33 展示風景(当日会場外では焚火が行われた) 撮影=シゲル・マツモト

マツモト:これで今までの目立った活動はほぼカバー・・・できてると思います。今はまた個展を目標に作品制作に励んでいます。最近は特に「意味」にまつわる作品を制作しようと考えています。


ー「家船」への参加経緯などお話ししてもらえますか?


マツモト:「家船」では、2019年1月24日に「マネージャーみたいな感じで動いていただける方を探している」とKOURYOUさんにお声がけ頂いたことを機に、制作補佐として主に予算・スケジュール管理を担当しました。
いい仕事ができるかどうかヒヤヒヤしていましたが、瀬戸芸の「家船」は無事完成し、予算を大幅にオーバーすることなく、参加作家諸氏への経費精算も大きな遅れなく完遂できたので一応は及第点、といったところなのかと・・・。

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図34 「金比羅権現」データ提供・撮影=シゲル・マツモト

マツモト:
作家としては、「家船」内の神棚に作品を一点だけ奉納させて頂きました。「家船」とその歴史にはシンパシーを感じていました。マレーシアにもオラン・ラウト(海の人の意)という漂海民がいますしね。
近々「家船」が出航します。これをここまで読んで下さった皆々様、是非とも応援頂ければ幸いです。


最後に、100番勝負の宣伝してもいいですか?

ーもちろんです。


マツモト:ありがとうございます。100番勝負とは、弓塲勇作さんと2015年からやっているお絵描き対決企画です。是非下のリンクからご覧くださいませ。しばらくブランクがありましたが、2年11か月振りに復活しました!2020年4月9日時点で37戦18勝19敗、僕が僅差で負けていますが残り63戦、気を抜かずに挑んでいきたいですね。

シゲルマツモト図34

図35 2020年4月19日 100番勝負 ROUND 38
左:弓塲勇作『wwwwwwwww』
右:シゲル・マツモト『ウォッチャー』
2020年4月19日 100番勝負 ROUND 38

https://ybyskmtsmtshgr.tumblr.com/

マツモト:それではみなさま、お元気で。シゲル・マツモトでした。ありがとうございました。

TOP画像タイトル『関東平野_入稿_v.1(リサイズ済)』

レビューとレポート第15号(2020年8月)