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詩/思い出

思い出

渋谷駅
急行を待つ
見知った顔の二、三を無視して
井の頭線ホーム
喪服を着た者はみな久我山で降りる

涙雨
、 、 、
、 、 、
、 、 、
風を地にとどめ
一つの時の止む音
花を添えた
方舟に
かつて彼であった体
口元を緩めている

のぼりつめた草の先で
視力よりも細い糸をたゆわせ
吹き飛ばされて海を越えた蜘蛛

生まれた時から今に至るまで
私たちは輪郭に時を乗じた値である
寸分の中断もなく
空に向かって伸び続けた時間上の植物
五感に映らぬ奥行きを秘めて
死体が横たわっている

火葬であれ風葬であれ
尾だけは葬りようもなく残る

1998年4月

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