![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144948806/rectangle_large_type_2_d59e6f868b9c85030973dea87c960bf8.png?width=800)
詩/思い出
思い出
渋谷駅
急行を待つ
見知った顔の二、三を無視して
井の頭線ホーム
喪服を着た者はみな久我山で降りる
涙雨
、 、 、
、 、 、
、 、 、
風を地にとどめ
一つの時の止む音
花を添えた
方舟に
かつて彼であった体
口元を緩めている
のぼりつめた草の先で
視力よりも細い糸をたゆわせ
吹き飛ばされて海を越えた蜘蛛
生まれた時から今に至るまで
私たちは輪郭に時を乗じた値である
寸分の中断もなく
空に向かって伸び続けた時間上の植物
五感に映らぬ奥行きを秘めて
死体が横たわっている
火葬であれ風葬であれ
尾だけは葬りようもなく残る
1998年4月
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?