静かな夏のともしび。


ちょうど4年前、私の夏は終わった。私の高校のソフトボール部は、県大会で目標としていたベスト8を決める試合で負けてしまった。でも、最後の大会は一瞬一瞬が本当に楽しくて、4年経った今でも、打ち損ねた打球の残像を鮮明に覚えている。

そして今日は、弟にとってのその日。胸が熱くなる。強豪校ではないから、常に「負けたら終わり」の背水の陣だ。きっと彼にとっても、同じように大切な瞬間になるのだろう。

しかし私は家にいて、このnoteを書いている。現地に直接応援に行くことは叶わなかった。今年は家族で2人までしか行ってはいけないらしい。なんだかなあ。代わりに、TVでは東東京大会の決勝が流れている。

両者ともに甲子園常連校の熱いカード。今年は甲子園が中止になってしまったから、都道府県大会が最後の大会となる。彼らにとっては、勝っても負けても最後の試合なわけだ。本来であれば、甲子園出場をかけた一戦だった。彼らはどんな気持ちで打席に立っているのだろうか。


「優勝しなければ、必ずどこかで負けて終わる。」

現役時代によく聞いていた言葉だ。しかし、今年は負けずに終わる学校がたくさんある。強豪校にとっては、夢だった甲子園の舞台が目の前でグラグラ崩れていった。夢や目標を失うことは、想像するだけで胸が痛む。一方で、チームの事情により大会にすら出場できなかった学校もたくさんあった。学校にコロナ陽性者がいて出場できなかったり、休校期間の遅れを取り戻すために部活を諦めたり。こんな形で高校3年生が「折り合い」を学ぶなんて、ちょっと難しすぎる。

こんな環境の中で最後まで野球ができている弟は、幸せなのかもしれない。でも、1番楽しいはずの最後の3ヶ月間、まともに練習することができていなかった。みんなで集まって練習していると白い目で見られるため、黙々と個人練習に打ち込んでいた。本心は不完全燃焼なのかもしれないけど、それを表には出さず「仕方ない」と割り切れる弟は、私が高校生だったころよりずっと大人だなと思う。


それでもTVの中で戦っている選手たちは、4年前に対峙した対戦相手と同じ目をしている。「負けたくない」という気持ちに、画面越しでも気圧されそうになる。ブランクなんて感じさせないほどに1つ1つのプレーが洗練されていて、つい見入ってしまう。


色々な形で、小さくなってしまった炎。

それでも消えてはいない。

その力強さに、ちょっとだけ涙ぐんでしまった。

静かな暑い夏。どうか1日も長く続きますように。


(おしまい)



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