アメリカ写真-マンホール

「下駄をたくさん持ってくればよかった」9/11・マンハッタン島


9/11日


小雨がぱらつきそうな雰囲気の中、1日が始まった。
時間は朝の6時ごろ。
起き抜けにタバコを吸おうと、二階の居住スペースから一階を経て、外にでた。
(ニューヨークでは日本人の方が経営するユースホステルの二階に滞在している)
一吸いしたところで背後のドアあたりで物音がした。
一階の住人であるらしいインド人男性が同じく外に出て来たところだった。
カバンを持っていることから出勤前のリーマンパパさんらしい。
僕は「ヘろぅ」と流暢に声をかけた。


「ファック」

そんな始まり方だった。
不服だけどしょうがない。
こちらはストレンジャーなのだから。
こちらは、ストレンジャーなのだから。


今日は午前中から出かけようと決めていた。
行き先は「ワールドトレードセンター跡地」
日付的にちょうど滞在期間とかぶるし行ってみようかしら、そんな気持ちを携えて早朝のニューヨークに出かけて行った。


17年前に起こった2001年の出来事を受けて、現地では早朝にもかかわらずたくさんの人が足を止め、それぞれに手を組みながら祈りを捧げていた。
国防色の強いおじさんが「9/11の真実」と書かれた旗を自転車にくくりつけて佇んでいたが、一言も声を発していなかった。
そこまでキメ込んでの無言は逆に雄弁だった。
全体的な印象としては日本の敗戦ムードよりもずっと真摯な態度に思えた。
ポーズとしてではなく、自分ごととして祈る感じ。


初めて現地の墓地をみたのもカチコミを感じた。
火葬ではなく、土葬。
緑と茶色と灰色の三色が混ざる墓地。真ん中には様々な印字がされた鐘。


その後少し風の吹くまま気の向くまま移動してみると跡地の近郊に記念教会のようなものを見つけた。
早速入ってみる。
教会内では少なくない人数の人々が下をうつむきながら一心に何かをつぶやいていた。
少し移動してみる。祈りの間のようなスペースには当時の死者鎮魂のための物品類がショーケースに収められていた。
そこで目を惹かれたのがショーケースの真ん中に位置する千羽鶴群。
日本の伝統手芸がアメリカ人の心を癒しているのを目の当たりにして、「すげえよぉ」って思った。


そこからはひたすらにマンハッタン島を北上して多くのブロードウェイの劇場が隣接するゾーンを目指した。
混み込みとした街並、さすがニューヨークや・・。そんなことを考えながら四方八方に視線を移ろわせる。
そんな道中の最中、下駄をカッポカッポと鳴らしながら歩いていると、一人の黒人男性に声をかけられた。
以下原文英語


「ヤァ、君の履いている靴はいいね」
「どうも、これは日本の伝統的な靴で『下駄』って言います」
「知ってるよ」
「(知ってるんかい)」


「なぁ、ここだけの話、その靴はどこで買ったんだい?」
「これは日本で買いました(知ってるって言ったじゃん)」
「ワオ!」
「(ワオじゃねえわ)」
「なんと言うか、すごくクールだね」
「ありがとうございます。それじゃあ・・また」
それだけ言うと僕はその場をさろうとした。
なんだか怖さの片鱗を感じたので。


「ちょっと待ってくれ」
「は、はい」
「どうかその靴を譲ってくれないか?」
「はい??」
「本当に本当にその靴が欲しいんだ」
「い、いやぁ」
「なんでも、僕が今持っているものだったらなんでもあげるから。ね、だからお願い」


彼はその時うっすらとカビの生えた自前の水筒しか持っていなかった。
無論、いらねぇ。


「いやぁ、そうですね・・・ちょっと譲れないですね」
「頼む、本当に本当に欲しいんだ」
ドラクエ5の作中に「モンスターが仲間になりたそうにこちらを見ている」という有名なスクリプトがあるが、まさにそんな感じだった。
すごく目が潤んでいた。それすらも若干怖かった。


「実はこれはとても大事にしている靴なんです。なのでごめんなさい」
「そうか・・・とても残念だよ」
彼はそう言って僕にもう行っていいよ、と手をヒラヒラとさせた。
僕はあいむそーりー、とだけ呟きその場を後にした。


途中何度か振り返ってしまった。
彼はまだ僕の下駄を見て瞳を潤ませたままだった。

なんだか言いようのない気持ちになった。
彼の言うまま、あの汚い水筒と僕の下駄を交換したらどうなっていただろう。
帰り道裸足で帰るんか?わしゃ、とか余計なことを考えなければ。
僕が今、問屋くらい下駄を持っていたら彼に譲ることができたのに。
日本の伝統的な履物を楽しんでもらえたのに。
そんなことを考えて少し泣きそうになった。なんなら少し泣いてた。
ニューヨークで他の下駄を手に入れうことができたら、真っ先にこの通りを訪れよう。
そうして潤んだ瞳の彼を見つけよう。
僕はそう心に決めた。


そんなこんなでニューヨーク滞在みっかめは過ぎて行きました。
明日の予定としては、ニューヨークには食べられるマンホールがある、そんな噂を耳にしたので探しに行こうと思います。
それでは。


阿修羅内・ミルコクロコップ・悟道


▼今の時点でアメリカで一番ウケたお笑い

・即興コメディーのクラスにて、ウォーミングアップで10秒間思いっきり泣く演技をしてくださいと言われた際に、70秒くらい泣いた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?