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花開く時【第27節】鹿島アントラーズVS川崎フロンターレ

 水曜日にガンバが敗れ、土曜日にフロンターレが勝てば優勝が決まる。そう聞いてふと思い出したのは、2013年シーズンの最終節ホーム広島戦のことだった。

 この年、現実的には得失点差で厳しい状況であったが、優勝争いは最終節までもつれていた。そんな中、エースストライカー大迫が前半終了間際に2枚目の警告を受け、退場。試合はそのまま敗れ、目の前で対戦相手の広島が優勝する様を見送った。そして背番号9はこの冬ドイツに渡る。

 ホームスタジアムで対戦相手がシャーレを掲げるところをみるのは、ある意味屈辱的とさえ言えるかもしれない。

 記憶がごちゃ混ぜになっていたが、翌年2014シーズンの最終節では、やはりホームで勝てば優勝の可能性を残すところで鳥栖に0-2と敗れ、3位でシーズンを終えた。クラブのレジェンド中田CROが引退を表明していた。去りゆく戦友の無念を思い、小笠原満男はベンチコートのフードを深く被り、俯く姿が脳裏に焼き付いている。

 思い返せばこの数シーズンもものすごくもどかしい聖地での最終節だった。そしてその日々があったからの2016栄冠のシーズン。

 時計の針を戻そう。

 2020年の川崎フロンターレはここまで記録的なまでの快進撃を続けている。そして発表されたクラブのパンディエラの引退。
 結果的には、ガンバが勝利したため、今節での川崎の優勝は無くなったが、クラブの象徴のラストシーズンに史上最速での優勝を確定させるべくクラブとしてのモチベーションは高いはずだ。
 そしてここ数年は川崎が常に目の前に立ちはだかってきた。
 2017シーズンのリーグは勝点で並んだが得失点差で2位(直接対決は2敗)。翌年もリーグを川崎が連覇(直接対決1分1敗)。2019シーズンは優勝争いが佳境となる11月にホームで叩かれ、勢いを失った(直接対決1分1敗)。ルヴァン杯でも準決勝で敗れ、川崎はタイトルを獲得。
 振り返るとこんなにも勝てていないことに気づく。
 直接的な因果関係があるかはわからないが、今シーズン序盤の敗戦も川崎が圧倒的な結果を残している遠因になっていると私は思っている。
 実力のあるチームならいずれ出逢う運命だが、フロンターレからしたらお得意様と言ってもいいような状況だろう。
 3連覇期は鹿島が川崎の前に立ちはだかったが、直近はまったく立場が逆転している。
 今期の鹿島は対照的に産みの苦しみを味わう受難のシーズンだった。0から紆余曲折を経て、ひとつひとつチームを構築してきた。
 チームを作り上げるにはこれほどにも時間がかかるのかということを体感した。
 しかし、鍛えた玉鋼はもうなまくらではない。型も覚えた。相手が成熟した大剣豪でもまったく気後れすることはない。
 どのようなサッカー人生を歩むか、人それぞれであるが、若い頃に花が咲かずとも、腐らずにクラブに尽くして晩年に花開いてタイトルという果実をもたらした。
 そんな中村憲剛というJリーグを代表する偉大な選手のカシマラストゲームである。彼が若い頃にそうであったようにやはり鹿島は強かったといわしめて締めくくりたい。

 今度はこちらが花開く時だ。