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クラシック音楽の敷居の高さはどこから来るのか?その2ーーー演奏会のマナーについて

クラシック音楽への取っ付きの悪さの理由として、演奏会でのマナーの多さに辟易する、というものが挙げられることがある。SNSでも、しばしば炎上ネタとして取り沙汰されるそのマナーについて、個人的に少しまとめておきたいと思う。

結論から言えば、何でもかんでも自由じゃなくて、色んな聴き方をしたい(こうやって聴きたい!)という人がいるんだからそういう人たちにも気を配れ、ということだと思う(あ、別になんか不満があって文句を言いたいわけじゃありません。読んだいただければ意味がわかります)。あと、これからクラシック音楽の演奏会に足を運んでみようと思っている人たちに向けて声をかけるとすれば、アーティストのライブを観に行くくらいの感じで最低限のマナーを守ってくれれば大丈夫、という感じである。

①成文律化されているルール


演奏会の開演前には、色んな放送が流れて、注意事項や宣伝が列挙される。ある企業の主催公演のプログラムに書かれている実際の「お断り」について、その一部を紹介してみたい。

・会場内での写真撮影、録音、録画は固くお断りします。
まあ、これは言われなくてもなんとなく分かる。

・携帯電話やスマートフォンの電源をお切りください。
これは、是非守ってもらいたいなあと思う。電源オフではなく、マナーモードなどの音の鳴らない状態を求める公演もあるが、とにかくiPhoneのマリンバの着信音や、アンドロイドのメールの受信音、Siriの喋り声などは何としても避けたい(ライブとかでも、バラードの途中で、隣の人のスマホが鳴り出したら激おこだと思う)。都内のホールとか大きいホールだと、電波を遮断するシステムがあったりするので、個人的には機内モードでも十分だと思っている人間だが、最も怖いのは目覚まし機能(アラーム機能)である。これはどうしても制御できない。ソワレとかで20時とかにアラーム設定している人とかマジで意味わからんのだけど、そういうのが鳴ったりすることは、残念ながらよくある。先日、東京オペラシティで行われたアルゲリッチの公演で、ラヴェルのコンチェルトの第2楽章の冒頭で、鳴った(分かる人には分かるが、絶対鳴らしてはいけない箇所である)。勿論、SNSでは憤慨する人で溢れた。大体そういう人は、アラームの切り方を知らないので、複数回鳴らすことがある。これらが一番怖いので、やはり電源を切ることをオススメする。若い人は電源の切り方を知っているが、電源の切り方も分からない中高年は、クロークに預けた方がいい。

・お財布やバッグ、携帯電話などにつけている鈴などもホール内ではよく響きます。公演中は音が鳴らないよう、お気をつけください。チラシ等は演奏中の落下防止のため、足下に置くかバッグにしまう等ご対応をお願いします。
ここまで細かく記載するプログラムも珍しいかも?と、書きながら思ったが、鈴も楽器と一緒でパーカッションの一つなので、客席から楽器が鳴ると、それはもうよく響く。第一、何でもかんでも色んなものに鈴つけるのって何?熊にでも襲われたことあるんですか?と個人的に思うのはさておいて、本当によく響くので気をつけましょう。チラシの落下については、気をつけていたら落ちないけども、不安な人は床に置いた方がいい。

・補聴器を使用されるお客様は、正しく装着されているか、今一度ご確認ください。
補聴器のハウリングについては、よく問題になる。ハウリングは装着している人には分からないので、隣の人が教えてあげる以外に方法がない。

②不文律化されているマナー


さて、ここまでは主催者がお願いしているルールだったので、最低限守りたいことなのだが、特に指示はされていないけれども、こういうことを気にする人がいるというマナーの一部を挙げてみたい。

・飴玉の袋を開ける音
ビニールのパリパリ音は、音が高いので会場に響きやすい。同時に持続しがちなので、かなり不快に思われることがある。

・プログラムをめくる音
紙の擦れる音というのも、音が高い以上、気にされがちである。

・スマホの光
演奏中にスマホをいじっていると、暗い客席にその光があってそっちに目が行ってしまうことがある。

・エア指揮
音楽に合わせて、指揮をしている客席のおじさんを見かけることがある。スマホの光と同様、演奏会において、視覚情報というのは耳から聴こえる情報以上に重要で、デリケートなことがある。視界に一定の動きをする人がいると、かなり気になってしまうことがある。

・ヘドバン
特にピアノの時、音に合わせて首を振る客席のおばさんを見かけることがある。演奏会において(以下、同文)。

・何やらヒソヒソ話をしている。
今、演奏中ですよ?何を情報交換しているんですか?

・柵から身を乗り出す。
後ろの人から舞台が見えません。なんなら横の人も見えません。

・フライング拍手・フライングブラボー
指揮者のタクトが降りてから拍手をお願いします、とお願いする主催者もあるくらいだが、特に余韻を楽しみたい曲の場合、フライング拍手(フラ拍)やフライングブラボー(フラブラ)、つまり早すぎる拍手やブラボーの叫びは、興ざめになる。これで演奏会が台無しなることもある。演奏家や指揮者の意図として、フライングしてほしくないと考えて敢えてゆっくりタクトを下ろしたり、ピアノの鍵盤からゆっくり指を下ろしているのに、すかさず「ブラボー!」と言われると、「え?」ってなる。

・楽章間の拍手
これを気にする人もいるが、個人的には全然気にならない。チャイコフスキーの『悲愴』第3楽章、あの圧倒的な終わり方をしてから「はい、拍手は我慢してください」と言われるのも、普通なら難しいのではないだろうか。むしろ、新しいお客さんが来てくれていると思って嬉しいような気もする。例えば、あるピアニストのリサイタルでは、数曲立て続けに弾くので、曲間の拍手はやめてくださいというお願いが書かれてあって、その意図を汲み取るのは容易だから拍手は当然やめるのだが、和歌山での第九の演奏会で、プログラムの中に別紙で、わざわざ「楽章間での拍手はご遠慮ください」という内容のマニュアルシートみたいなのを、挟んで配られていたのを見た事がある。主催者の意向か、演奏家の意向なのか、なんか逆に居心地が悪くなるような気がしたのを記憶している。


さて、私が今思いつく限りでは、これだけの「暗黙の了解」がクラシックの演奏会では存在している。しかし一般常識の範疇のものもあるので、個人的にも、確かに「楽章間の拍手」以外のマナーについては守っていただけると、気持ちよく演奏会が楽しめる。

クラシックの演奏会は、いわば現実の世界とは乖離した、非現実の世界・幻想の世界・空想の世界・芸術の世界・非生活的な世界だと思っている。そういう異空間を楽しむ空間でもあるから、そこに集中したい、心の底から楽しみたいという気持ちは常に持ち続けている。

ただ、完璧な異空間を作り出すことは難しい。それを求めようとすると、私自身が違ったベクトルに集中力を削がなけれはならないということに、ここ数年で気付き始めた。これだけのルール・マナーを列挙したところで、それらを守る事ができるのはSNSを見ている人か、こういう文章を読む事が出来るような限られた人たちである(エア指揮をしているような人は、そもそもこんな文章は読まない)。

なので、マナー違反をしている人やその行為を見かけても「いちいち、こんなん気にしとったら(曲に)集中できん」と思うようにしている。この言葉を合言葉にして、すぐに目の前の演奏に集中することにしている。これを身につけたことで、クラシックの演奏会通いを始めた頃の、マナー違反に対するイライラがかなり減退した。

自分自身がルールやマナーを守っておけば、問題はない。一方で、守れない者、マナー違反に対してかなりセンシティブな人、色々いる。だから、全員が気持ちよく演奏会を聴き終えるために、何でもかんでも自由ではない、独りよがりなことはしてはいけない、という気持ちを持つ事が重要だ、ということに収斂されると思う。

また、これから演奏会に初めて行こうと考えている人は、このルールやマナーの多さを見てさらに辟易したかもしれないが、小学校や中学校で開催された芸術鑑賞会と全く同じなので、スマホの電源切って普通に座ってたら何の問題も無い。同じ会場に居て着席しているおよそ1000人くらいのお客さんは、あなたと同じように問題ないから。私もあなたと同じようにただ普通に着席して、ただ純粋に、目の前の音楽会を楽しんでいる。

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