大学生野手、目玉不在。だが面白い。

少し前、Twitterにて、「豊作の定義」みたいなものが話題になったことがありました。ザックリ言いますと、言う人によって、以下の2つのうちどちらかをイメージするようです。

A 目玉選手の力量がズバ抜けているが、他は普通

B 目玉選手はいないが、優良候補がひしめいている

僕はが豊作だと思うのですが、Aだという人もいて、ここで理解にズレが生じてきます。同じ言葉でも、使う人によって違う現象を指す場合、通じているようで通じない会話が続いてしまいます。そもそも「豊作」というのは、作物が取れすぎて、値段すら下がってしまうような状況を指すので、ドラフトにおいてもBのほうが妥当かなと感じる次第です。

今年のドラフトはどのカテゴリ・ポジションも不作だというのが大勢の人々の見解です。個人的には、それは来年(&再来年)と比較した場合においての意味だと思っていまして、今年の候補が、誰を指名してもスベるというわけではないと感じています。目玉不在どころかバリバリの1位候補すらほとんどいないのが現状ですが、上位指名されそうな選手はそこまで見当たらないわけではありません(ただ、2巡目なら良さそうな指名と言われ、1巡目なら高すぎる!と言われる選手は多いでしょう)。今回取り上げる、大学生野手についても同じことが言えます。それでは、ここから本論!

●捕手

今年の大学生捕手、誰から書くかとなりますと、やはり、吉田賢吾(桐蔭横浜大)からになるでしょう。コンスタントにセカスロは1.9秒前後という肩もさることながら、リーグ戦通算160打席ほどで打率4割を超え、3年秋・4年春だけで通算11本塁打、しかも三振は通算6個ほどしかないうえに四球はソコソコ獲得しているという驚異の打撃成績。全国大会でも本塁打を記録しているというのも強みです。

ただ、この打撃成績の割にスカウトの視察情報さえほとんどないことが定期的に話題になります。ひとつ、原因として言われているのが、速球への対応力への疑問。特に、145km/h以上の速球が苦手なのではという意見がありまして、それが事実ならスカウトの視察情報やコメントが弾んでこないのも仕方ないかなという気がします。実は1位候補なのではという声もありますが、理由は不明ながら大学代表候補にも選ばれていませんし、個人的には4~5巡目かなと思います。

今春、吉田が出れなかった大学野球選手権にて高評価を不動のものにした感があるのが野口泰司(名城大)。セカスロはこちらも1.9秒台でしかも精度が高く、リーグ戦の成績は吉田には及びませんが2度の3割を記録。野口がすごいのは全国大会の成績でして、昨年と今年とで合計6試合に出場し、打率5割以上。長打も4本放ち、三振は1個のみという安定感。打撃フォームは少し我流っぽい感じですが、恐らくプロでは下位打線でしょうし、そこでOPS.600以上は残せそうなものがあると思います。案外、3巡以内での指名もあるのではないでしょうか。

彼ら以外の候補となると、箕尾海斗(明治大)や土井克也(神奈川大)あたりの名前が挙がってくるのでしょうけど、箕尾は昨秋に打率4割を記録した打棒を今春は発揮できず打率.241に沈んでしまいました(選手権では6打数3安打でしたが)。土井は昨秋の神宮大会で打率.545に加え、本塁打3発という大爆発を記録するも、リーグ戦では2年秋以外は打率.250前後ですし、長打が多かったシーズンも3年春ぐらいしかありません。吉田や野口に比べると少し落ちるかな、という印象です。

●内野手

二遊間のドラフト指名に関してはここ数年、明らかな傾向がありまして、打てるセカンド>守れるショート という市場での優先度になっています。守れるショートという売りだけでは、2巡目以内に割って入ることは現状だと難しいようです。

というわけでセカンドの候補から紹介します。1年次から騒がれ、今年ついに解禁となる大型セカンド、山田健太(立教大)。1年春から打率.375で2本塁打を放つ鮮烈デビューを飾り、同年秋も二塁打3本に加え、打率.333を記録。その後、今春も含め、リーグ戦で4度の打率3割を記録しています。ただ、ほとんどのシーズンは長打数が2~3本にとどまるなど、少しイメージとは違いますが、ホームランはほとんどのシーズンで1本塁打以上は記録していますし、いわゆる単打マンではありません。なお、1年次からかなり三振が多かったですが、今春は55打席で6三振まで減らしており、ここに関しては一定の信頼が出来そうです。二塁守備はまあ、足を引っ張らない程度という感じでしょうかね。打撃フォームはここに来て一時期より良くなった感がありますし、顔は元から良いです。2巡目以内での指名もあると思いますが、1位は少し荷が重いかもしれません

同じ六大学の法政大にも注目のセカンド・齊藤大輝がいます。3年春に打率.342で3本塁打、3年秋は打率.438という驚異の大爆発を記録しましたが、今春は一転、打率.208という深刻な打撃不振に陥ってしまいました。50m5.9というスピード力もあり、守備も機敏な選手なのですが、打撃を売りにできないとなると少し順位に響きそうです。法政大の傾向からすると、志望届は出すと思うのですが、それなりの順位をつけないと社会人入りとなりそうですし、そういう意味では指名漏れとなる可能性も低くないでしょう。フォームは少し癖が強く、タイミングを外されたら望みがないような印象です。

近年、上位指名の目立つ東都では、林琢真(駒沢大)が気になります。身長174㎝と小柄ではありますが、50m6.0で、一塁到達4秒未満を記録したこともあるほどのスピード力があり、東都一部通算27盗塁。それに加え、今春は初本塁打含む、5本の長打。打撃フォームも良さそうですし、期待が持てます。大学代表候補にも選ばれていますし、代表の舞台でアピールできれば、指名に現実味も出てきます。気になるのは、5打席に一度は三振してしまうこと。もう少し、踏み込んでからスイングを止められるようになればという印象です。守備は軽やかで、もう少しスローイングが強くなればという気もしますが、セカンドとしては悪くないと思います。

セカンドの候補として、もう1人。大学野球選手権にて2試合連続アーチを放った小林龍憲(東日本国際大)は、今春のリーグ戦で打率.442、3本塁打を放った急成長の長距離砲です。二塁守備も最低限の動きはクリアしていますし、当たった時の打球音がすさまじく、フォームも良く、強打者らしさが溢れています。とはいえ、実績らしい実績がまだ少ないため、支配下ギリギリで指名されれば御の字かも、という気はします。

ショートに目を移しますと、やはり田中幹也(亜細亜大)の名前以外に最初に挙げたい名前は思い浮かびません。身長166cmという小柄な選手ではありますが、まるで菊池涼介(広島)を見ているようなファンタスティックな守備が次々に飛び出し、彼のいるところに打球が飛んでほしいと思わせるほどです。50m5.9の俊足を武器に、東都一部通算38盗塁という点もさることながら、1年秋以外は特に大きな打撃不振もなく、打率3割前後で三振も少なく、四球を多く選べるという好選手。長打はさすがにシーズン平均3本なので少なめですが、今春はついに大学初アーチも放ち、アピールを続けています。

彼の評価を落とすものがあるなら、身長のほかに、潰瘍性大腸炎を抱えながらのプレーとなるため、悪化している際は実戦出場もままならないというのがネックになってくると思います。とはいえ、今年の大学生ショートの中では一番手に挙がってくるでしょうし、3巡後半~4巡前半での指名はあると思われます。

高校時代から田中幹也と並び称され、今も彼と同じ、東都に所属しているのが、奈良間大己(立正大)。身長こそ田中より高い174cmですが、打撃成績や50mタイムなどは彼と似通っています。違うところは、奈良間のほうが三振が多く、盗塁が少ない点。奈良間のようなプレースタイルにしては、7打席に1三振は少し多いようにも思えますが、四球も多いので及第点ではありそう。守備はファンタスティックではありませんが上手いです。ただ、特に田中より圧倒的に秀でているポイントも見つからないので、5巡目前後が妥当かなと思われます。なお、プレーはスマートですが、ハートは熱い男です。

そのほかのショートは横一線な印象ですが、友杉篤輝(天理大)は、右打者ながら一塁到達4秒未満という、おそらく今年の大学生ショートの随一の脚力の持ち主で、各球団もリストに入れざるを得ないと思います。守備はもう一歩のところでショートとしては中の上レベルかなと思いますが、リーグ戦で打率4割以上が3回、全国大会通算3試合で打率.750という数字はなかなかのインパクト。ただ、スイングそのものはかなり歪で、プロだと下位打線かもしれません。とはいえ大学日本代表候補にも選ばれるなど、実力は世代屈指。足の速い内野手を確保したいと思う球団が下位指名してくるんじゃないかと思います。

今夏の選手権に出られず、代表候補にも選ばれていない中では、門脇誠(創価大)がトップクラスの評価でしょうか。50m5.8との話ですが、振り切る打撃のせいか、一塁到達は遅め。それでも3年秋から打撃が本格化し、打率4割以上に加え、三振も11打席に1個ほどまで少なくなっています。にもかかわらず、毎シーズン5本前後は長打を放っているのはさすがの一言。守備も、強いスローイングを活かしたダイナミックな守備で、非常に安定感を感じます。打撃フォームは非常に良さそうではあるのですが、果たしてスカウトがどう見るのか、特に、速球への対応に関してどう見ているのかは気になるところです。5巡前後といった印象ですが、攻守とも高評価を貰えた場合、3巡以内の可能性もあります。

最後に、六大学所属の選手を。村松開人(明治大)は3年の春・秋とも打率.360台、春・秋あわせて長打10本を記録しつつ、三振は合計2個だけという絶好調ぶりを見せつけましたが、今年は冬に膝の手術を受けた関係で、今春はほとんど出場なしに終わりました。この時期に試合にほとんど出ないというのはかなりリスキーですが、逆に言えば既に高評価を与えている球団があるのかもしれません。50m5.9という俊敏さは守備にも発揮されていますが、現状、今春からショート復帰予定だったものが手術により復帰できず、セカンドとして売っていくしかない可能性もあるのは少し気になるところです。本来なら5巡前後なのでしょうけど、たとえば上位縛りの社会人内定だった場合、上位で指名しにくる球団もなくはないのかもしれません。

近年、注目選手の多かったサードは、今年に関しては特に注目株なし。ファーストは北村恵吾(中央大)が、自身初のリーグ戦打率3割突破に加え、三振も少ないという好成績でしたが、長打はリーグ戦で3本以上を打ったことがなく、セカンド挑戦がうまくいかなかった結果としてのファーストなので、あまり良い印象は与えられていないかもしれません。

余談ですが、今年の二遊間の候補はほとんど、身長175㎝未満なので、二遊間ならそれぐらいの身長でも構わないと判断する球団でないと指名には動かないかもしれませんね。

●外野手

大学生の外野手に関しては、打てないけど守備は任せろ、というような選手より、守れるか分からないけど打撃力が売りというタイプの方が上位指名されやすいです(もちろん、両方できているのがベストです)。

現在、おそらく序列の最上位を争っているであろう選手が、どちらも六大学の、蛭間拓哉(早稲田大)と萩尾匡也(慶應大)。蛭間拓哉は高校時から騒がれた選手で、ここまで六大学通算12本塁打。今春はなかなかホームランは出ませんでしたが、7本の二塁打を放つ活躍を見せました。50mも6.1とまずまず。

ただ、彼を語る上で抜きにはできないのが、通算185打数で51三振という三振の多さ。今春も60打席足らずで12三振。途中までよくても、いつのまにか三振を量産してしまう可能性があります。守備はセンターは少し厳しいという話ではありますが、おそらくプロでは両翼なので問題ないと思います。1位候補という声もありますが、少し背が低い(176㎝)なので、そこを気にしない球団なら1位もある、という感じでしょう。

今春、蛭間よりも鮮烈な活躍を残したのが萩尾匡也。なんとシーズン5本塁打(!)を放ち、打率も.339。フォームが非常に良く、インパクトの際に押され負けている感がありません。こちらも、三振が多めなのは気になりますが、彼個人としてはかなり減らしてきています。50m6.0の俊足がありながら、身長180cmとサイズは悪くありません。

守備はスローイングが少し苦手という見方もありましたが、打てる選手を、少々まだ技術が荒いからと言って二軍漬けにできるほど、今のNPBは打てる選手が飽和していないでしょうから、さほどマイナス評価にはならないかと。先輩の正木智也(ソフトバンク)と同様、2巡目前後での指名になるのではないかと思われます。

東都に目を移しますと、下級生の頃から上位候補と騒がれてきた森下翔太(中央大)が今年、指名解禁。1年春以降、ずっと成績が低迷していましたが、今春は久々の打率3割に加え、自己最多のシーズン3本塁打。ただ、1年春から続く傾向として、あまりにも三振が多すぎるのは変わっておらず、今年も57打席で13三振という有様。リーグでの打率こそ森下が圧倒的に上ですが、プロでは鵜飼航丞(中日)のような成績になるのかなと思われます。なんだかんだ3巡以内で指名されるのではないでしょうか。

中央球界以外の大学リーグですと、やはり、大学野球選手権や、代表チーム戦で打てたかどうかが指名に関するうえで重要なファクターになりますが、その意味で今夏、最も注目されたのは上崎彰吾(東日本国際大)になるでしょう。誰もが予想しなかった4試合連続本塁打もさることながら、4試合で打率.688、三振ゼロという、まるでパワプロのサクセス大学野球編でもプレイしているかのようなバグ成績で、大学代表候補合宿にも追加召集されました。

身長172㎝は両翼を守る外野手としては低いですが、吉田正尚も同じような身長なので、打てるなら高い順位も十分あるでしょう。ただ、リーグ戦では主力で打率3割を超えたこともなく、通算1本塁打ですので、スカウトとしてはこの成績だけを見て上位候補に推すのは少し不安を感じるのではないでしょうか。代表候補合宿でのアピールや、秋のリーグ戦成績が上位指名のカギになりそうです。

所属リーグでは圧倒的な打棒を見せており、選手権でどうなるか?と状況を注視していたのが、上武大の藤原龍之介門叶直己でしたが、藤原は.231、門叶は.077と低打率に沈み、アピール成功とはならず。藤原は今年では数少ない、センターを守れる選手ですし、昨年の選手権では打率5割を記録していますので、そこまで大きく評価を落としてはいないかもしれませんが、門叶は昨年の選手権でも打率1割未満でしたので、打撃でアピールするしかない立場としては少し苦しいかなといった印象です(フォームは悪くなさそうですけどね)。

地方大学リーグのセンター候補となると、もう1人、外せないのは杉澤龍(東北福祉大)。今春、打率.550、4本塁打、44打席で2三振のみという破格の成績を残し、大学代表候補にも選ばれています。選手権では4打数1安打・1三振ながら二塁打を放っていますし、そこまでマイナス評価にはなっていなさそう。センター守備も悪くなさそうですし、50mも6.0らしいという数字が見つかりました。次世代のセンター候補が是が非でも欲しい球団であれば、4巡前後で指名してくる可能性はあります。フォームも特に悪いところが見当たりません。

センターの候補で言いますと、他に、中尾勇介(日大)がいます。50m5.9のスピード力が最大の武器ながら、今春は東都一部で打率.350、2本塁打を記録。センターの守備も上手いですが、4打席に1個以上のペースで三振しているのはさすがに不安を感じさせます(フォームは悪くないと思います)。

最後に、澤井廉(中京大)。リーグ戦で4度の打率3割、通算8本塁打の重量級スラッガーで、春先は上位指名もうかがわせるようなコメントをスカウトが出していたりもしましたが、今春は打率3割を割り込んでしまいました。三振率がかなり低かった時期もあったのですが、ここにきて6~7打席に1個三振するペースまで悪化してきており、選手権や代表選での数字がない中では少しマイナス評価に傾きそうな数字になっています。とはいえ、秋に復調アピールできれば春の不調は誤差で済みそうですし、4巡前後での指名となればまだまだ可能性はあるでしょう。フォームも悪くはないですが、強いて言えばもう少し力みが取れてくると良いかもしれません。

●おつかれさまでした!

今回は大学生野手にスポットを当てて考えてみました。バリバリの1位候補となるとほとんど思い浮かばないですが、3巡あたりで指名したい選手に関してはとても多いなという印象です。

三振率は外せない項目として常に挙げていますが、今年に入り、なかなかヒットすら出ない試合も多々あるほど、NPBの投手力は上がってきています(ボールが飛ばないという話もありますが、それだけではない気がします)ので、2三振しても1本塁打できる野手の需要が今後、高まってきた場合、少々三振が多くても、長打力があれば上位指名されるケースも増えてくることが予想されます。

次回は都市対抗の直後あたりから、社会人&独立リーグの選手についてドラフト候補を紹介します。過去の例を見ても、不作と呼ばれた年は社会人の上位指名が増加します。おそらく今年は36人の中に10名以上が入ってきます。調べ甲斐はあると思いますし、候補を精査していきたいと思います。それではまた、次のnoteでお会いいたしましょう。バイバイ!

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