メカニクスについての自分の考え方

ドラフトに関する投稿も一段落を終えました。次に何について書いてみようか、twitterでアンケートを募ってみたところ、打撃メカニクスについての投稿が見てみたいとの意見が寄せられましたので、それについて書く予定でしたが、その導入で書こうと思っていた”メカニクスの考え方について”という部分が思っていたよりも長くなりそうでした。基礎的な考え方もですし、どのようにメカニクスの効果を考えていくのかという点についても、しっかり触れておく必要があるだろうと思いましたので、今回はそこだけピックアップしてみます。

●メカニクスへの入り口

元々、自分がメカニクスに興味を持ったのは、ドラフト候補が果たしてプロで活躍できるのかどうかを精査するためのひとつの材料として、というのがひとつ。もうひとつは、”なんとなく打てそう/打てなさそう””なんとなく球が抜けてる感じがする”などの、自分が投手や打者に感じていた、言葉にはできない感覚を言語化させてくれるものだったからです。

前者について言えば、ドラフト候補がプロ入り後にどういう道筋を描くか。端的に言えば、順調に伸びていけるのか、苦労するのか。故障が多いのか、少ないのか。それらを見ていく上で、メカニクスは重要な観点です。どの球団のスカウトも、今はしっかりメカニクスを見ているようです。

後者は、色々な選手のフォームを漠然と見続けていると、活躍する選手に共通する特徴があるような気がしていて、それを言語化したり、着眼点を教えてくれる手助けとなるメカニクスは、とても有用でした。とはいえ、分かりかけてきたこともあれば、仮説に基づいてメカニクスを見る中で、逆に分からなくなってきたことも生まれてきます。追いかけっこのようなものです。

自分のメカニクス知識はほぼ、自分の中の感覚と、twitterで得た知識とで構築されており、専門的な書物を読んだり、勉強の末に得たものではありませんので、専門書を読まれている方や、お金を出して学ばれている方からすれば、自分の外に出すほどのレベルではないと思うのですが、時折、フォームを見てほしいというDMをくださる方がいたり、ドラフト候補のアマチュア選手からフォローされたり、驚きつつもありがたい限りです。

●メカニクスは万能薬なのか

みなさまが気になるところはここでしょう。僕も気になっています。好結果が出ないのは、メカニクスが良くないから。メカニクスを良くすれば好結果が出るのではないか。

たとえば、外角のスライダーの見極めが苦手な打者がいたとします。本人もそれが分かっています。なんとかそれを克服するため、筋力をつけてスイングスピードを上げて始動を遅くしたり、素振りを何度も繰り返したりしました。その結果、見極めて打てるようになったとしたら、それはまだ本人の肉体が未熟だったという理由でしょう。しかし、どれだけ練習を積み重ねても見極めが苦手で、打てなかったとしたら、それはメカニクスに問題があるのかもしれません。

また、ある投手は、アマチュア時代に快速球で鳴らしていた本格派投手でした。頭角を現してきたのがドラフト解禁イヤーだったので、肩や肘への負担も最小限。プロ野球でもルーキーイヤーに10勝を挙げる活躍。しかし2年目の途中に肘を痛めてしまいました。これまで、そんな大きな故障はなかったのに。こういう場合、アマチュア時代よりもシーズンが遥かに長く、高出力を要求されるプロの世界に身を置いてみて初めて、故障しやすいメカニクスだったという問題が現実のものになったかもしれませんし、メカニクスに問題はなく、酷使されたのが原因だったかもしれません。

メカニクスは好結果を出すためのアプローチのひとつです。高次元のメカニクスを有し、特に致命的なフェーズ(箇所)のない選手は、好結果を出し続ける可能性が高いですし、逆に、光る面はあるものの、問題のあるメカニクスでプレーしてる選手は、好結果が出にくく、仮に1シーズンは良くても2年、3年と経つと輝きが薄れていく場合が多いように思います。しかし、結果が出ないのはメカニクスが悪いから、とは限らないし、結果が出たのはメカニクスが良いから、とも限りません。

メカニクスが良くても結果が出ない時もあれば、メカニクスが悪くても好結果が続く時もあります。挙げられる理由としては、対戦相手のレベルや、自分へのマークの厳しさ/甘さ。フィジカルの弱さのせいでやりたいフォームを再現しきれなかったり、逆に、フィジカルの強さで少々のメカニクスの悪さを一掃してみたり。野球は確率のスポーツであり、結果が問われるスポーツです。結果が出ても出なくても、なぜ結果が出た/出なかったのか。その理由の一つとして、メカニクスは絡んできます。メカニクスは重要な指標にはなりますが、万能薬ではありません。結果が出たから良いメカニクス。出なかったから悪いメカニクス。そんな簡単なものではありません。

もう一つ付け加えると、投手にしても野手にしても、平均球速が140km/hから145km/hになることで、メカニクスに求められることが変わってきます。投手なら、140なら故障しなくても、145なら故障の確率は跳ね上がりますし、打者でも140までなら打てても、145以上なら打てないようなフォームは数多く存在します。20年前といわず、10年前までの正解が、今は不正解になってしまう世界です。いくら往年の名選手・名コーチでも、いつのまにかその指導が正解とは言い難いものになってしまっている怖さがあるわけです。

●「リリース前に軸足が地面から離れるのはダメ」?

twitterでこういう話が話題になりかけたことがありました。具体的に言うと大谷翔平投手(エンゼルス)についてのことなのですが、彼は2017年頃から、リリース前に軸足が地面から離れるようになり、その頃から結果が出にくくなり、MLB移籍後、ついに肘を痛めてしまいました。個人的には、彼が肘を痛めたことと、軸足のことには関係があると思うのですが、MLBの投手はリリース前に軸足が地面から離れる投手も多いので、そこは問題じゃないだろうという声も多く挙がっていました。

メカニクスは、骨盤・股関節・肩甲骨周り・体重移動といったあたりに重要な要素があるというのが、自分の考え方です。これらの動きは体内で起きているので、目に見えにくいのですが、これらの動きに何らかのエラーがあると、それは目に見えやすい部分に現れてきます。打者で言えば、踵体重や、開きの早さや、足の上げ方や、身体の捻り方など。投手で言えば、ステップ幅や、軸足が地面から離れるタイミングや、開きの早さや、リリース時のグラブの位置など。しかし、体内のコアな部分をよく考えず、目に見えやすい部分だけを指摘してはいないでしょうか。仮にそこだけ直したとしても、それは根本的な解決ではないので、出力が落ちたり、あるいは問題のなかった部分に新たな問題が起きてくるかもしれません。

例えば現在、好結果を残している投手は、千賀滉大投手のような、踏み込んでいく脚を”くの字”にするタイプが多いですが、このフォームにすれば活躍できるわけではありません。体内の動きの結果として、そうなっているだけです。人間の骨格の細かな差や、筋肉のつき方は、個人差が大きい部分です。ひとりひとり、良い部分と、直した方が良い部分は違います。似ている選手を参考にするのは良いですが、彼らの真似をすればいいとは限りません。ただ、彼らがフォームについて語っている言葉は大いに参考になるので、考えていく中でのひとつのアプローチとしては有用です。

なお、結局、大谷の軸足どうなの?ということに関してですが、大谷翔平の体重移動と、MLBの投手の体重移動とは少し違うところがあるので、大谷に関しては良くないけれど、問題のない投手もいる というのが自分の結論です。これに関してはまた別の機会にnoteで書くつもりです。

●おつかれさまでした

まだ言い足りてないこともあるので、思い出した際に加筆するかもしれませんが、書いておきたいことはひととおり、書いたつもりです。次回は打撃メカニクスの観察点についてのnoteを書きます。今回は番外編というか、長すぎる序論みたいなものなので、いつもの締めの挨拶はしません。次回をお楽しみに!

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