2020ドラフト候補⑤ 社会人投手

全6回予定のドラフト候補紹介も、いよいよ終盤。ここから社会人選手編です。基本的に、全国大会である程度の結果を残した選手が指名されることが大半なので、ドラフトまでに全国大会があるか微妙な今年は、指標に乏しい。おそらくプロ側としては、気になる候補がいたら、その企業と練習試合を組んだりして、実力を測ろうとしてくるのではないでしょうか。特に、大卒社会人投手は初年度から一軍で結果を出すことが求められています。多少、フォームに課題があっても押し切れたら成功なので、全国大会での結果はとても重要です。なお、データはドラフトレポートさんのものを使わせていただいております。

今回は、高卒社会人右腕・大卒社会人右腕・社会人左腕の三部構成でいきます。なお、一時期、高卒社会人投手の指名がかなり少ない時期もありましたが、近年は大卒社会人投手の指名が少なくなり、昨年は高卒社会人投手の指名のほうが多いぐらいでした。特に、下位指名の大卒社会人投手の使い道はほぼリリーフなので、それが大学生や、上位候補の大卒社会人、独立リーガーの指名によって補われると、下位指名の大卒社会人投手の指名は激減することとなります。果たして今年はどうなるでしょうか。それでは始めます。

●高卒社会人右腕

今年の高卒社会人右腕の中で、最もスケールの大きそうな投手となると、個人的には森井絃斗(セガサミー)だと思います。184/94という恵体からMAX152km/hの速球と、2種類のフォークが武器です。彼のフォームは肩甲骨を寄せきれず、上体の横回転要素が大きく、下半身の体重移動も使いづらいのが課題。つまり、制球に苦しんだり、球速ほど打者が苦にしない可能性があります。ただ、故障しそうな要素があまりないのはメリット。高卒4年目までにMAX150km/hを突破してる投手は、公式戦での実績がそれなりにあれば上位指名されることが多いので、期待したいところです。

今年のドラフト市場において、高卒4年目までにMAX150km/hを突破している右腕は、森井含めて4人。順次紹介していきます。小野大夏(HONDA)も高卒3年目でMAX150km/h。昨秋の日本選手権でも登板し、2イニングで2奪三振・無四球。彼は肩甲骨の寄せを使えているフォームで、ストライクゾーン内に苦もなく速球を投げ込める制球力は買いだと思います。反面、骨盤のかませが甘く、球速の割に球威が足りないという可能性があります。骨盤のかませ とは端的に言いますと、右腕の場合、軸足一本で立ち、前へ身体が移動していく際に、左足の股関節が右足の股関節の上に乗るような使い方をしていることです。こうすることで、左足が接地した際に、最初は右足の股関節にあった体重が、左足の股関節に移り、後ろから前への体重移動が完了し、右のお尻が左のお尻をまたぐように動きます。これができず、単に左回転しているだけの右腕はプロでも多いです。なので指名に際しては特にマイナスポイントでもないでしょう。

高卒4年目ながらMAX152km/hを記録しているのが小木田敦也(TDK)。都市対抗での登板実績もあります。ただ現状、あまり芳しい成績は残せていません。彼もまた、骨盤が横に回るタイプの投手で、並進(軸足一本で立ちながら身体が前へ進んでいくフェーズ)中に、上体が三塁側へかなり傾くのも特徴的です。少し懐かしい投手ですが有銘兼久(楽天)に似ている気がします。小木田のフォームは腕の角度以外はサイドスローっぽいので、思い切ってサイドスローにしてみるというのもひとつの選択肢かもしれません。身長173㎝という点も、サイドスローなら気にならなくなるでしょうし。

もう一人の150km/hボーラーである水本雄也(山口防府ベースボールクラブ)も個人的に注目しています。普段はスポーツクラブで、トレーナーの仕事をされてるそうです。野球では特に大きな大会での実績等はないですが、特に何も気になることがない美しいフォームです。肩甲骨の寄せ・身体の後ろで前腕が立つトップ・骨盤の縦回転・リリース後の左膝が伸びている等、素材として非常に興味が湧きます。上位はないとしても、下位で指名されてほしい投手です。

中日が1位候補に挙げた際、どっちの松本?と話題になったのが松本竜也(HONDA鈴鹿)です。180/85の肉体は楽しみですが、MAX146km/hの速球は、特に球威以上のものは感じられませんし、公式戦の数字もドラフト候補としては見映えしません。エネルギーの爆発点が掴めていないような印象をフォームから受けます。まだ高卒3年目ですし、もう1年鍛えてみてからでもいいのではないでしょうか。中日スカウトも、MAX150km/hが出たら~という希望的観測のようです。余談ですが、もう一人の松本である松本桃太郎にも期待しています。

フォームが良さそうだなと思ったのは、阿部陽登(日立製作所)。高卒4年目、180/79、MAX148km/hというスペックに加え、フォームも特に問題はなさそうですが、被安打が多い・奪三振が少ない・(粘られる結果として?)四死球が多いというのが現状です。原因のひとつは、並進中にあまり体重移動が起きていないことかなと思います。頭をもう少し後ろに置いておくとか、並進速度を少し早める等の工夫をして、投げ終わりで左足の股関節にさらに体重が乗ってくるようになれば、球威が上がり、当てても凡打になるケースが増え、コースギリギリを狙わなくても打者を打ち取れるようになってくるはずです。

他では、飯田大翔(セガサミー)も面白いかなと思いました。森井絃斗と同い年で、少し彼のスケールを落とし、フォームを良くしたような投手です。MAXは149km/h。ただ、森井よりフォームが良いかなとは思いますが、まだもう少し突き詰めてほしい感じです。望めば今年、指名される可能性はありますが、来年に勝負をかけてもいいのではというのが個人的感想です。

●大卒社会人右腕

今年の大卒社会人右腕で言えば、やはり栗林良吏(トヨタ)が一番手と思います。大学卒業時は惜しくも指名漏れしましたが、2年後に1位候補として勝負できるなら、2年間は充実した回り道となるでしょう。MAX153km/hの速球を持ち、都市対抗・日本選手権あわせて4試合に先発して被安打率5.47、奪三振率10.95という驚異の好成績で、四死球率も2.92という安定感。フォームは特に何も言うことはないのですが、強いて言えば、最初に足を上げる際にもう少しだけ三塁側を向いた方が、下半身の体重移動が捕手側へまっすぐ行われるので、さらに良くなるのではと思います。

高校時代から好きな投手でしたが、ここ最近、上位候補との記事が出て驚かされたのが伊藤優輔(MHPS)です。MAX150km/hの速球に加え、無駄な力感のないフォームなのですが、とにかく四死球率が悪く、大学通算で5.94、社会人での全国大会でも5.79という惨状。動画を見ていますと、叩きつけてしまう場面が目立ちます。並進中に少しグラブが上がり、投球腕の肘が下がっているフォームなので、リリースでシーソーのようになってしまって叩きつけてしまっているのかもしれません。とはいえ今年視察したスカウトからは、”全てのボールがコントロールされ”というコメントが出ており、もし制球が改善されているのなら、本当に上位指名されるかもしれません。

球速だけで言えば山本晃希(かずさマジック)がMAX155km/hで、社会人のドラフト候補の中でトップ。183/92という恵体も魅力的です。テイクバックが小さすぎるフォームなので故障のリスクは低くないですが、そこは指名に際してはマイナスポイントにはならないでしょう。むしろ、イニングを超えるような被安打率の方が不安です。スプリット系の変化球も使えるようなので、速球を見せ球にする等の工夫で結果を出すのが良いかもしれません。

今年、指名解禁となる大卒社会人右腕のうち、MAX150km/h台の速球を持っているうえで、社会人の公式戦でそれなりに先発登板し、かつ一定水準以上の成績を収めている投手は2人ほどです。釘宮光希(日本通運)は日本選手権で2試合に先発し、14 2/3イニングで奪三振率7.98かつ無四球なのは立派です。少し体重が三塁側へ逃げていくようなフォームなので球威がロスしている印象を受けますが、踏込み足を”くの字”にしたりする等の修正で良化するのではと思っています。釘宮とは対照的に、大江克哉(NTT西日本)は四死球率は3.97と悪いながら、都市対抗・日本選手権あわせて4試合に先発し、22 2/3イニングを投げて被安打率3.97、奪三振率9.93という圧巻のスタッツ。テイクバックをやや小さめにとり、ステップ幅も狭く、球威でおしていくスタイルなのだと思いますが、結果を残し続けられるかどうかは肘の具合との相談になるかもしれません。(制球および故障リスクという面で)。

イロモノ枠(?)で面白そうなのは若山蒼人(日本製鉄鹿島)189/90というビッグサイズのアンダースローで、MAX137km/hの速球はアンダースローとしてはかなり速い部類です(およそ15km/h増しで考えればいいと言われています)。大学時代は四死球率が多めでしたが、社会人になってからはあまり出さなくなっており、今年、先発で結果を残し続ければ指名もあるかもしれません。

●社会人左腕

もっか上位候補とされているのは藤井聖(JX-ENEOS)。MAX150km/hの左腕であるばかりでなく、昨年のアジア大会では5イニングを投げて10奪三振・1四球。社会人の公式戦でも、28 2/3イニングを投げて被安打率4.40、奪三振率11.93という圧巻投球。ただ、今年は年初から左肘に違和感を感じていたという不安なニュースも。投球を見る限り、明らかに左腕の力で投げているフォームで、下半身が土台としての役割しか果たせていません。ただ、同様に左肘に慢性的な痛みを訴えていた河野竜生(日本ハム)も1巡目で指名されたので、指名に際してはネガティブ要素ではないでしょう。

大学時代から注目されるも社会人に進んだ佐々木健(NTT東日本)も今年が指名解禁。なのですが、全国大会を含め、昨年は特に目立つ成績を残せていません。MAX152km/hの速球も、今はそこまで出す機会はないようで、被安打率・四死球率の数字が絶望的に悪いのが現状。今年、大きく巻き返さないと、あの頃にプロ志望しておけば・・・と言われかねません。

対照的に、大学時代に大きく評価を落とすも、社会人で巻き返しを見せているのが森田駿哉(HONDA鈴鹿)。二塁側へ直線的にテイクバックをとる、山本由伸(オリックス)と似たテイクバックから、制球の良い平均140km/hの速球とスライダーで勝負してきます。昨年のAWBではNPBファーム連合チームや台湾プロ野球とも戦いつつ、4度先発していずれも試合を作るゲームメイク能力は評価したいところです。リリーフだとどこまで力押しできるか分からない(今も150km/h近い速球を投げれるか不明)ので、先発を期待する方が良いと思います。

高卒3年目組では池谷蒼大(ヤマハ)金成麗生(トヨタ)がいますが、まだチーム内で確固たる地位を築けてはいません。池谷はリリーフとしては割と出ていますが、MAX144km/hなので、青田買いするにもさすがにまだ早いかなという状態です。リリーフで言えば、坂巻拳(三菱自動車岡崎)の方が指名に近いのではと思います。大卒2年目、187/94の恵体からMAX147km/hと鋭いスライダー。都市対抗では1イニング投げて2奪三振。そのほかの公式戦では、リリーフ登板だけ見ると、被安打率6.75、奪三振率8.59、四死球率2.45というまずまずの数字。個人的には先発もやれそうな気はするのですが、マネーピッチとなる変化球が少なすぎるのかもしれません。

●おつかれさまでした

社会人投手はどうしても、候補が多くなりすぎるので、かなり削ったつもりですがそれでも多くなりました。ドラフト不作年といわれた2013年には23人も指名された社会人投手ですが、例年は10人強で、昨年は11年ぶりに一桁(8人)に終わりました。今年も10人前後の指名と思いますが、果たしてどうなることでしょうか。

それでは本日のnoteはこれで終わりになります。最後までご視聴ありがとうございました。社会人の投手、あまり知らないから知れてよかったな~!とか、来週もまた頑張ってね!とか思ってくれたら、高評価!よろしくお願いします。それでは、ばいば~い。

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