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僕の好きなアジア映画67: シャドウプレイ 〜完全版〜

『シャドウプレイ』
2018年/中国/原題:风中有朵雨做的云/125分
監督:ロウ・イエ(婁燁)
出演:ジン・ボーラン(井柏然)、ソン・ジア(宋佳)、チン・ハオ(秦昊)、マー・スーチュン(馬思純)、ミシェル・チェン(陳妍希)、チャン・ソンウェン(張頌文)

僕は中国第六世代を代表する映画監督ロウ・イエの映画を全て観ているわけではありません。今まで観たのは『スプリング・フィーバー』、『二重生活』、『ブラインド・マッサージ』、そして本作の計四作。しかし本作以外の作品がどれも「個人」にフォーカスした、いわば小さい映画であっただけに、本作の歴史を背景とするクライム・サスペンスを当初異質に感じました。しかし実はその歴史の流れの中での「個人」を描いたものであることに気付きます。

本作は天安門事件の年でもある1989年からおよそ30年近い期間を描いています。改革開放政策は、開発の進む大都市の中に古い街並みが残された「城中村」と称される地区を産み出しました。そこは解体と再開発の対象となる場所となり、さまざまな人々の欲望の対象となります。

写真はこの映画のものではありません。高層ビルに囲まれて古い街並みが残っている「城中村」。

物語は役人、不動産業者、そこに居住する人々など、欲望に囚われた者たちが引き起こす悲惨な殺人事件と、それを追う刑事によって展開されます。

不動産会社の社長(ロウ・イエ映画の常連チン・ハオ)、その不倫相手であり役人の妻(ソン・ジア)、そしてその女の夫である役人(チャン・ソンウェン)
事件を追う刑事に人気のジン・ボーラン
役人の娘に『ソウルメイト』のマー・スーチュン。実は社長の娘。
不動産業者のビジネス・パートナーに台湾の女優ミシェル・チェン

テンポの早い編集による物語の展開、過去と現在を激しく前後する時間軸、凄まじい暴力やアクション、次ぎ次ぎと登場する人物達、撮影にハンディー・カメラを多用することによる映像の臨場感と揺れ、それらがこの映画を即座には理解し難い、しかし眼が離せない魅力的ものにもしています。しかし後から全体を俯瞰すれば決して難解なプロットではありません。

改革開放という政策は歴史的に大きな転換であるとともに、制御不能な欲望の暴発をもたらす装置でもあります。映画の冒頭の住民側と不動産側との衝突は実際にあった事件をもとにしているそうです。こういう政治的背景を持つこの映画は、2年以上の間中国共産党の度重なる検閲の対象となったようですが、ロウ・イエ監督は粘り強くそれに耐え、スピード感のあるスリリングな映画を創り上げました。しかし根本的には欲望に取り憑かれた「人間」の物語であることがこの監督たる所以であるように感じます。



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