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僕の好きなアジア映画 05:ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
2018年/フランス・中国/原題:地球最后的夜晚/UN GRAND VOYAGE VERS LA NUIT/Long Day's Journey into Night
監督:ビー・ガン(毕赣)
出演:タン・ウェイ、ホァン・ジュエ、シルヴィア・チャン、リ・ホンチ


これからの中国映画を牽引する若き映画監督として、大きな期待を集めるビー・ガンの長編第二作目。昨年は長編デビュー作の『凱里ブルース』も前後して公開され、二作ともセンセーションを巻き起こしたのだが、どちらの作品も各々それは素晴らしいし、甲乙つけがたい作品であったと思う。しかし個人的には映画自体がグッと洗練された感がある本作が、より衝撃的であった。

この映画、物語としてはさして劇的な展開や。大きな事件がある訳ではない。幻の様な「運命の女」を探し求めて、夢とも現実ともつかない中で彼女(『ラスト・コーション』のタン・ウェイが素晴らしい)を探し求め彷徨う、まあそれだけといって良いと思う。ただ今までの中国の映画と完全に違うのは、ストーリーを殊更意識しないそのあり方と、スタイリッシュで圧倒的映像美だと思う。

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恐らく観たもの誰もが驚愕するのは、後半60分にわたる長回しである。主人公が場末の映画館でサングラスをかける場面(なんで映画館でサングラスやねんというツッコミはあり得るが)から、それは突然に始まる。ここからの描写は、「夢」に他ならないと思う。夢は記憶の断片を自身が再構築したものであるが故、不条理であり脈絡がなく、必ずしも辻褄が合わない。時間や空間、そして重力の制限から自由である。従ってすでにこの世にいないものや、そこに存在するはずのない人物も登場するし、重力に縛られず浮遊するように動くことが出来るし、現実の時間軸とは違う記憶も混在し得る。ビー・ガンはこの60分で、誰のものでもあり得る記憶の迷宮である夢を、この浮遊する映像で表現し、観客をこの映画の内側に取り込むことに成功しているのだ。特に3D版での非現実感は圧倒的だ。3Dは通常平面から立体に次元を増やすことでより現実感をもたらす効果が期待されるものと思うが、この映画ではその3Dがむしろ強烈な非現実感をもたらしているのである。

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夢や記憶についてはタルコフスキーの、スタイリッシュな映像美についてはウォン・カーウァイの影響を感じさせるが、中国の土着の風景・風土の中でこれを撮り切ったビー・ガンのセンスには脱帽せざるを得ない。これは長く語り継がれるべき映画だと思います。

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