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僕の好きなアジア映画22:象は静かに座っている

『象は静かに座っている』
2018年/中国/原題:大象席地而坐
監督:フー・ボー(胡波)
出演:チャン・ユー(章宇)、ポン・ユーチャン(彭昱暢)、ワン・ユーウェン(王玉雯)、リー・ツォンシー(李從喜)

『象は静かに座っている』は、中国の若き映画監督フー・ボー監督(1988年-2017 年)の、生涯ただ一作の長編映画であり、彼は本作を撮影した後に、29歳にして自死を選んでしまいました。ペンネームHu Qianでも知られる小説家でもあります。自死の理由は、自身の映画が自分の望まない形で編集されることへの絶望であった、と言われていますが、本当の理由は知る由もありません。。

舞台は中国北部の、以前は炭鉱で賑わっていたが現在は廃れてしまった小さな田舎町。そこに住まう、それぞれに解決し難い問題に直面し絶望の淵にある、孤独な4人の1日を描いた作品です。

主人公は同級生をあやまって階段から突き落としてしまった少年、そして突き落とされた少年の兄で親友を自殺に追い込んでしまい自責の念にかられている街の不良、家に居場所がなく教師と肉体関係を持ってしまう少女、娘夫婦に邪魔にされ老人ホーム行きを強要されている老人。彼らのありさまを、ハンディー・カメラにより登場人物の背後から追いかけ、縦横無尽に駆け回るカメラワーク。生々しくかつスリリングな長回しによって、映画は彼らの絶望を映し出します。

最後にはその4人が、2300km離れた満州里にいるという、1日中ただ座り続けているという象の存在にわずかな希望を託し、それを見に行くことを目指し旅立ちます。象の姿、それも一日中座っている姿は、確かに見るものに安らぎを与えるかもしれません。しかしそれは慰めにはなるかもしれないけれど、決して確かな希望にはなり得ないし、彼らももちろんそれは承知しているのでしょう。単に儚い希望への憧憬か、静かに絶望を受け入れるための行動に過ぎないのかもしれません。果たしてそれが何を意味するかは、観るものの解釈に委ねられています。

監督本人が希望した圧巻の234分です。ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督に師事したフー・ボーの、現代中国の行き場のない苦悩を鮮烈に描いた作品でした。今後に大きな期待を残した作品ながら、残念なことにもう二度と彼の新しい映画を観る事はできないのですね。

第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンション、第55回金馬奨最優秀作品賞


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