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僕の好きなアジア映画13:少年の君

『少年の君』
2019年/中国・香港/原題:少年的你
監督:デレク・ツァン(曾國祥)
出演:チョウ・ドンユイ(周冬雨)、ジャクソン・イー(易烊千璽)、イン・ファン、ホァン・ジュエ、ウー・ユエ、ジョウ・イエ

とても突き刺さる映画です。「いじめ」を中心にして、受験戦争、貧困、ストリート・チルドレンなど、社会の問題を抉り出した厳しく辛い映画です。

いじめの問題は人種や国を問わず、人間が集団を作る限り残念ながら根絶できない、残酷で頭の痛い問題です。さらに現在では携帯で簡単に写真が撮れて、そしてそれをすぐにSNSにアップできるようになり、便利なデバイスであるがゆえに、結果的にいじめを幇助する新しいツールになってしまいました。このためいじめはさらに陰惨さを増し、絶望的になった気がします。

映画冒頭、飛び降り自殺をした少女の遺体を無神経に撮影する同じ学校の生徒達の態度からは、いじめや他者の状況に対する彼らの共感力の麻痺が感じられます。そしてその遺体に服を被せてあげたことから、主人公が次のいじめの対象になってしまいます。

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貧しいけれど成績優秀な主人公の女子高生を、張芸謀監督の『サンザシの樹の下で』でデビューし、「13億人の妹」と呼ばれる人気若手女優チョウ・ドンユイ。

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また孤独な街の不良少年を演じたのは、イー・ヤンチェンシー。中国ではトップアイドルとして活躍しているアイドルグループ、TFBOYSのメンバーだそうです。

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受験戦争は中国でも凄まじいようで、過剰な競争故に若者達の心はひどく荒んでいます。また経済的な格差によって生活はもちろん学業でも取り残されていく若者たちもいます。いじめの問題と、社会の荒廃とは決して切り離して語られるべき問題ではなく、この映画はそこを真っ直ぐに描いています。

出口の見えない過酷な状況の中、この映画の救いは、ともに孤独な主人公と不良少年との出会いと魂の共鳴であり、二人の真っ直ぐで時に過激で、しかし一途な恋愛こそ、この映画の希望でもあります。舞台装置として、重慶をロケ地とした、孤独や閉塞感を象徴するような暗く無機質な建物、階段、廃墟など、ロケーションの妙も特筆されるべきです。

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エンドロールでいじめ問題に対する中国政府の施策を、宣伝的にアピールするのは、この映画唯一の余計な要素と言わざるを得ません。映画の余韻を損ねてしまったと、個人的には思います。それを差し引いてなお切実に訴えかけてくる映画でした。

監督は香港出身で俳優でもあるデレク・ツァン。しかし内容的には中国の映画といって良いと思います。若く個性的な才能を輩出する中国映画の進化を感じずにはいられません。

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