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僕の好きなアジア映画55:ワン・セカンド 永遠の24フレーム

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』
2020年/中国/原題:一秒鐘/103分
監督:チャン・イーモウ(張芸謀)
出演:チャン・イー(張譯)、リウ・ハオツン(劉浩存)、ファン・ウェイ(范偉)

僕が初めて観た中国映画は、チャン・イーモウ監督の『紅いコーリャン』(1987年)だった。赤を基調にした鮮烈な映像や、原初的なエネルギーが横溢した神話的な物語、そしてこれが映画デビューだったコン・リーのヴィヴィットな魅力で、いまだに僕にとっては中国を代表する映画であり続けている。その後も『菊豆』『紅夢』『初恋の来た道』など、彼の映画を見続けた。しかし『HERO』、『LOVERS』などワイヤーワークの武侠物を撮るようになって以降、個人的には彼の映画に対する興味は少しずつ失われていった。

その後も何度も期待して彼の映画を観ることは観るのだ。しかしそつのない良質な映画ではあっても、やはりあの独特の一種プリミティブなエネルギーの様な波動が感じられなかった。

さて本作は2018年の『SHADOW影武者』以来久しぶりの作品。率直に言って仕舞えば、本作でもまだ往年の彼の映画のようなインパクトを感じることはできなかった。しかしいくつかの部分でこの映画が好きだと感じさせる部分があったのも確かなのだ。

まずは砂漠の映像。驚くほど広大な砂漠を、映画の舞台としてまるで別世界のように、かつ圧倒的に映し出している。これほど砂漠を美しい被写体として表現している映像は稀有ではないか。

汚れてしまった映画のフィルムを村人たちが総出で洗浄する場面。キラキラと光る膨大なフィルムを捉えた映像が、映画への愛と、映画の神秘が封じ込められている。

そしてヒロインを演じたリウ・ハオツン。コン・リーやチャン・ツィーなど、かつてチャン・イーモウが見出し、世に送り出した女優たちは、その後大女優への道を歩んでいくのだが、この女優もまた素晴らしい。前半の浮浪者風の彼女はあまり魅力を感じないし、お芝居も「ちょっと」なのだが、ちゃんとした格好すれば、ご覧の通りの輝きを感じる魅力的な女優である。彼女もまた素晴らしい女優になっていくであろうと思わせる。

リウ・ハオツン

文化大革命の嵐の中、それでも大衆は唯一の娯楽として映画を熱烈に求め、労働改造所を抜け出した主人公はたった1秒(24フレーム)のニュース映像の中に収められた、自分の娘の姿を見るために村へ映画を観にくる。映像のもたらす至福を求めて。本作にはそんな映画への愛が込められている。

アジア・フィルム・アワード 最優秀監督賞、同新人俳優賞


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