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僕の好きなアジア映画80: タイガーテール -ある家族の記憶-

『タイガーテール -ある家族の記憶-』
2020年/アメリカ/原題:Tigertail/91分
監督:アラン・ヤン(杨维榕)
出演:ツィ・マー(馬泰)、クリスティン・コー、リ・ホンチ(李鴻其)、フィオナ・フー、ジョアン・チェン(陳冲)など


タイトルの「タイガーテール」と一体何なのだろうと、観ている間ずっと疑問に思っていました。

これ以下ネタバレになってしまいますが、ご容赦を。物語は美しい麦畑を駆け抜ける少年の姿から始めります。台湾の片田舎、貧しいながらも母と幸せに暮らす主人公。精悍な青年へと成長し、母と共に過酷な工場で働きます。相思相愛の美しい恋人もできます。

彼の夢はアメリカに行くこと。真面目さを見込まれて、工場長の娘と結婚し一緒にアメリカへ渡ることに。恋人には何も告げずにそれに従います。しかし言葉も通じず、特に技能を持っていない彼にアメリカでの生活は容易ではありません。

妻は妊娠し子供をもうけますが、のちに離婚。長い時間が経過し精悍な青年はすっかり髪も白くり、お腹も太鼓腹に。たまに会う娘とのコミュニケートがうまくできません。しかしSNSでメリーランドに住む昔の彼女を発見し、彼女と再会します。

そのことで彼の心境はどこか変化し、そして娘と故郷を尋ね、やっと心を通わせることができます。

という物語で何か大きな出来事が起こるわけではありません。無口な主人公そのままに静謐な描写が続きます。しばしば姚蘇蓉 & 電星樂隊の「偷心的人」がノスタルジアを掻き立てます。


おそらくお若い方はこの映画、なんて地味で面白味のない映画なのだろうと思われるかもしれません。しかしこの歳になると、主人公の心情がよく分かります。彼と同じ経験をしたということではなく、年齢を経て過去を振り返る時の気持ちのあり方や故郷を思う気持ちに、僕は共鳴するのだと思います。自分の過去の決断に後悔もあるけれど、人生は白か黒かのデジタルではなく、多くの状況はどちらでもないグレーでアナログなものであり、現在に地続きなのです。決断として何が本当に良かったか、などは実は重要ではありません。自身の決断におそらく彼は後悔をしていないのではないでしょうか。であればこそ彼は自分の現在の望み、娘とのコミュニケーションを、故郷の地で実現させたのだと思います。人生を振り返るためには故郷は欠かせないものですから。

監督は自身が台湾からの移民一家に生まれたアラン・ヤン。アメリカで教育を受けた2世で、人気ドラマ『パークス・アンド・レクリエーション』やコメディ・ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』で頭角を現した脚本家。本作は彼の初長編映画です。しかし邦題の「ある家族の記憶」という副題はいりませんね。イメージを限定してしまいます。

さてさていよいよ最後まで「虎」は出てこなかったし、「虎の尾」を踏むような場面もありません。しかし最後の最後にやっと氷解。主人公の故郷の地名がチラッと映されます。その地名が「虎尾」なのでした。



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