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僕の好きなアジア映画35:僕らの先にある道

『僕らの先にある道』
2018年/中国/原題:后来的我们/120分
監督:レネ・リウ(劉若英)
出演:ジン・ボーラン(井柏然)、チョウ・ドンユイ(周冬雨)、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)など

率直に言って、物語の展開はベタだと思う。ストーリーの行き先はほぼ予想通りだし、地方の故郷と都会とを描くのは中国の映画では常套手段の一つだ。それでもなおこの映画にちゃんと泣かされるのは、このラブ・ストーリーの持ついくつかの魅力によるものだと思う。

まずは主演のチョウ・ドンユイ。少年のような華奢な体型。決して美人ではない(と思う)。その小さな体で人生を疾走するような奔放でエネルギッシュな役柄を演じている。天真爛漫で刹那的なようでいて、繊細であり真摯でもある。彼女はそういう役柄が多いが、本作でもその存在感は圧倒的だと思う。中国では「13億人の妹」と言われるそうだが、それだけの国民的な人気も頷ける。「少年の君」の坊主頭も衝撃的だったが、本作も体当たりで演じている彼女に惹きつけられる。

「13億人の妹」、チョウ・ドンユイ(周冬雨)

もう一つは映像。過去の映像はカラーで、現在の映像は白黒で綴られる。どちらも非常に美しい。希望やヴァイタリティに溢れていた過去の映像は、それ故にカラーなのだろう。映画はその二つを行き来する。夢を叶えた、あるいは諦めた「現在」は落ち着いたモノクロームで描かれる。わかりやすいコントラストを形成している。物語の最後で現在の映像がカラーに戻るのは、「過去」の終焉を迎え、お互いの現在を認め再び希望を希求する主人公達の心情を反映させたものだと感じる。

過去の場面はカラーで
「現在」はモノクロームで。

そしてこの映画でもう一つ興味深いのは、中国の地方出身者、庶民の生活を見せてくれることだ。夢や経済的な成功を求め地方から都会に出てくる若者たち。成功するのはもちろん一握りだ。ほとんどは貧しい生活を送り、絶望し故郷へ戻る。象徴的なのは「蟻族」という言葉だ。大卒者でありながら、都市部において安定的な職を得られず、低賃金の非正規労働で生計を立てざるを得ない若者たちをいう。劇中主人公たちが同棲する住まいを上空から俯瞰する場面があるが、その粗末で入り組んだ集合住宅は、あたかも蟻の巣のようである。

この映画は夢みる若者たちのラブ・ストーリーであるとともに、近代化が進む現代の中国における、地方出身の若者たちの過酷な現実を見せてくれる。そしてそのかげで故郷たる地方も衰退して行かざるを得ないのもまた必然である。ラブ・ストーリーであるとともに社会を映す映画でもあるのだ。

Netflixで配信中。



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