『わたしたちが孤児だっったころ』
2000年に発表されたカズオ・イシグロの5作目となる長編小説
推理小説的な手法をとっており、作者自身も「アガサ・クリスティーのパスティーシュ(模倣)である」と語っている
兎に角難しい内容の物語だった
第一大戦後から第二次大戦後までの時代を描く、主人公の私立探偵の第一人称視点の物語
私は一人称の物語の進行は好きだ
1930年代の、ロンドン。主人公のクリストファーは、両親がいない孤児
まさしく本の題名通りのくだりだ
財産に恵まれた若者で、教育を受けて、志望通り「探偵」になった主人公
主人公クリストファー・バンクスの記憶の回想でつづられた、彼からだけの視点で描かれた子供時代
バンクスが私立探偵という職業を選んだのは、上海の共同租界で9歳のとき遭遇した、両親の失踪事件を解決するためだった
流石
シャーロックホームズが生まれた国だ
当時の探偵業というのは事件解決のお披露目をする程注目される職業だったのには驚きだ
幸福な生活を奪われ、孤児となった彼は、叔母を頼って上海からロンドンへ渡り1923年にケンブリッジ大学を卒業
私立探偵として名を馳せたあと、1937年、ついに上海に戻って、念願の調査に乗り出だす
イギリス人である支配者階級の両親の元上海に定住した家族
館の作りや庭そして館の中のに設置される重厚なマホガニー製の家具の記憶まさしくイギリスそのものだ
イギリスが上海(租界)を植民地化し
イギリス文化か上海(租界)に入り込んでいるのだと理解した
イギリスにも行ったことのない読者を魅了する説得力がある表現だ
西洋と東洋、貧困と富裕混濁と美しさのような街並みが
共同租界という特殊な空間を一人称で表現していく
父は、英国商社に勤め、母は敬虔な慈善家で、アヘン撲滅運動をしている
その商社は裏でアヘンを扱い中国に輸出していたという何とも皮肉である
イギリスと中国のアヘン戦争の背景も物語の中に見え隠れしまことしやかに物語の奥が深い
隣家に住んでいた日本人の友人や叔父や養育係の女性などの人物像を記憶にとどめ、植民地化された上海(租界)で生きる主人公クリストファー・バンクスとその日本人の友人アキラとの記憶を手繰る
バンクスの少年時代の記憶は汚れのない子供らしい記憶に終止符を打つ事件
両親の失踪、そして孤児となる
大人になり再び上海に戻ってくるバンクス
日中戦争泥沼の時期の上海
腐敗した支配者階級、悲惨な戦争
友人アキラとの偶然の再会
自分自身で手繰り寄せた両親の失踪の絶望的な真実
父は愛人と逃避行し
母は息子を守るため中国人マフィアに妾にされていた
母は、ひどい仕打ちを受けても自死をも選択できず、ひたすら息子の生活を守った
クリストファー・バンクスは母の慈悲のもと
今まで裕福に暮らせていたことを知る
母は心を病んでいて息子を判らなかったことは一つの救いである
最後まで知られたくなかった事実だろう
両親の失踪の事実を知ることが彼にとって幸せだったのか
やりきれない切なさがのこる物語だ
自分と同じ親を亡くしたジェニファーという女の子を養女に迎えたクリストファー・バンクスは、何を求めたのだろうか
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