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神々の島バリの台所、モダンライフと伝統の間で

インドネシアのバリは、世界中のサーファーが集うリゾートだと思っていた。しかし実はこの土地、「神々の島」という異名も持つ。
イスラム教徒が9割を占めるこの国で、例外的にヒンドゥー教が信仰されていて、食文化も独特。ビーチを一歩離れて住区に入ると、何やら神聖な雰囲気が漂っている。

一般家庭の敷地内にも、寺があり(右奥)厳かな雰囲気。

交差点には、小さなお供えの台。家の敷地内に、お寺。「一つの家に一つの寺があるんだよ。家の寺の他に、村の寺、パブリックな寺もね」と教わった。本当に寺だらけだ(正確には寺という概念とは少し違うのだがとにかく信仰の対象)。バリのヒンドゥー教は、インドのそれとは異なっていて、土着信仰と結びついた「バリヒンドゥー」という形で生活の一部となっている。

お世話になったのは、サーフガイドをつとめるシラさんの家。伝統の色濃い田舎の村で、村の共同体の中で暮らしている。
「毎朝お供え物をして、寺の行事は最優先。ぼくはガムラン(打楽器合奏)、妻は踊りの練習に参加する。上手ではないんだけど、奉納だからマストなんだ。」
サーファーらしからぬ、と言ったら失礼だが、きわめて朴訥で実直なはにかみ笑顔で彼は言う。

踊りの練習のために夜集う女性たち

そんなバリの台所は、家の敷地内の独立した建物にある。バリの家の作りは単機能の建物からなるコンプレックスで、北から順に、神々のための施設空間、生活の施設空間、そしてトイレや台所などの生理的施設空間という並びになっているのが伝統的住居様式だ。

台所の建物。青い縁取りがかわいい。

その台所で作る今日の夕飯は、鶏肉の辛い和え物serapah ayam。シラが鶏肉をグリルし、妻が香辛料のペーストをつくり、その横で10歳の娘タントゥリがにんにくの皮をひたすらむく。

最後に全部まぜあわせ、タントゥリが味見をして完成。辛くて風味豊かで、ご飯がすすむ。

バリ料理は香辛料を多用するがゆえ、なかなか手間が多い。「料理は一人でもできるけれど、でもこうしてみんなでやるのが好きなんだ」とシラは言う。

彼は、村の共同体とも家族とも一緒に過ごす時間を、あたりまえのものとして大事にしている。しかし、スマホが普及し、ここ15年くらいで村の様子はかなり変わってきたとも教えてくれた。

料理した後のガスコンロにも花を供える。火の神様に感謝

伝統は、美しい。けれどしがらみが多く窮屈で、面倒くさくもある。インターナショナルなモダンライフと伝統の信仰が共存するこの地の台所は、この先さらに15年でどう変わっていくのだろう。

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