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【育児日記】ちっち、病欠の月曜日

今日のちっちは昨夜からの発熱で学校を休んだ。
月曜日。
本来ならば、母は業務で大わらわ。週の初めで、一番多忙な曜日だ。

もっとも欠勤したくない日なのだが、子供はどういうわけか月曜日に体調をくずすことが多い。
日曜日に遊び疲れるのか、なにかの菌をもらってくるのか、遊びに夢中で体の芯が冷えていることに気づかぬまま長時間を過ごしているのか。
はたまた、知らず知らずのうちに平日強いられている緊張の糸が切れ、薄く伸びた被膜から体内の”お熱”がにじみ出てくるのか。

「昨日より少し良くなったみたい」
朝方、トイレで目が覚めたちっちが、妙に上ずった声で言う。
だが、この上滑りした声であれこれ言葉を並び立てる時のちっちは、だいたいにおいて本調子ではない。

いつもの甘ったれた声ではなく、やや大きめな早口で様々なことを明確に口にする。
「水、飲む?」
「飲みたい」
「DA・KA・RAだけど、いい?」
「いい。飲みたい」
「今、コップに開けるよ」
わたしは枕元に用意しておいたペットボトルの口を開ける。
「コップ持ってきてくれたの? ありがとう。おいしい。これ飲んだらトイレに行きたい。お母さんも一緒に行ってくれるでしょう?」

体の中に、半分誰か別の人間が入り込んでいるのかと疑念が湧くくらいしっかりとしゃべる。
まるでどこかの大人としゃべっているみたいで、こういうときのちっちは少し怖い。

寝る前に38度あった熱はどれだけ下がっただろうか。
早くいつものちっち、戻ってこい。

一緒にトイレに行った後、ちっちは再び眠りに落ちる。
まだ外は暗い。11月の4時台だもの。

目覚めの朝。
ちっちは布団の中でわたしと一緒に起きると言う。
「まだ寝ていてもいいよ」
「ダイジョウブ。起きる」
うん。まだややキッパリちっち。

完全な息子の様子ではないけれど、午前中だけでも登校できないかと母は思う。
だって、月曜日なんだもの。
忙しいんだもの。
お昼まで、なんとか。
それまでに母はできる限りの業務をこなしてくるから! 
お願い! 
と喉まで声が溢れてくる。

ひとまずソファーに座らせて体温計を差し出す。
首元を触った感じで「これは、いかん」と直感する。

ピピピッ
「ああ、ダメかも」
ちっちが座ったまま、うつろな目をして体温計を見せてくる。
37.4度
「うん。起きたばかりで体がまだ熱いのかもしれないから、もう少ししたらもう一度測ってみて」
こうやって平熱になり、通常登校したことはこれまで何度もある。

昼までなんとかもたないだろうか。
給食を食べ終えた頃迎えに行くとか。

ピピピッ
「お母さん、ごめん」
ちっちが38度を示した体温計を熱い手で渡してくる。

うん。分かった。

ちっちに謝らせて悪かったと思う。
38度も熱があったら、人に気など遣いたくないはずだ。
わたしの登校せよオーラがにじみ出ていたのに違いない。

「学校休もうね」
「お母さんは?」
「もちろんお休みするよ。横になっていたいでしょう?」
うん。
うなづくのも億劫なのだろう。喉の奥でちっちは返事をする。


「元気になぁれ」

これは我が家の、いやわたしにとっての魔法の言葉だ。
ずっと以前に、ちっちが生まれるもっと前に、夫が体調不良のわたしに向けて送ってきたガラケー時代の写真。
手のひらいっぱいにマジックでそう書かれていた。

わたしはなにも書かれていはいないが、いっぱい心を込めた手のひらで、布団に入ったちっちの頭とほっぺをそっと撫でる。
早く元気になぁれ。

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