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痛いと言ってくれ【初めての胃カメラ検査】

会社の健康診断で、生まれて初めて胃カメラをのんだら再検査の診断が出た。
これまでの検診ではバリウム検査一択だったから、胃の中の細かい状況まで分からなかったのだ。

カメラで覗くと、胃荒れがあり逆流性食道炎の兆候も見られ、なにより胃の表面に白くなったものがあるのだという。モニターで一緒に見てもよかったのだが、こちらはゲーゲーいっているし、半年分の涎が出た格好になっているし、両目から涙がスーッとこぼれるなどして、なにより眼鏡を外した裸眼ではたいていのものを識別することは困難なのだった。

再検査の過程で組織検査となった。
結果は二週間後に出るという。

なぜここまで気づきもしなかったのだろう。

”自慢の胃腸”のはずだった。
子供の頃から胃腸は頑丈で、朝から天ぷらも生クリームも食べられる性質だった。
さすがにこの歳になりそういうチャレンジは差し控えるようになったが、これまで胃腸に支障をきたしたり、痛みを感じたことがなかった。

女性に多いとされる便秘にも悩まされたことがないし、むしろ快腸快便を鼻にかけていたくらいである。トイレに入っても長く留まることはない。
タブレットを持ったまま数十分トイレから出てこない夫を理解できない。まあこれは、朝から自由時間が持てていいものだというわたしの僻みもある。

とはいえ大酒飲みではないし、とくに偏った食生活としているとも思えない。野菜や果物を好んで食べるタイプだ。腹8分目では寂しいから9~9.5分目まではいくとしても、決して満腹満腹と脇腹を叩いてその満足度を表現したりするほど食べはしない。外食して容量オーバーになることが、ごくごくたまにある程度。

周囲でよく耳にする胃もたれとか胸焼け、嘔吐感にさいなまれることもない。胃腸はもとより、片頭痛も生理痛もほぼ皆無でここまでやってきた。薬もほとんど飲まない。子供の頃にお腹が痛いと正露丸を飲まされたが、わたしにとって薬とは正露丸であり、あの猛烈な匂いを嗅げばたいてい飲む前から治ると決まっていた。
足は挫くが、わりあい内蔵は強靭である。
健康な体に産んでくれた母に感謝申し上げたい……とずっと思ってきた。

そんなわけだから胃腸には自信があった。それなのにそこに問題があると言われるとびっくりするし、ショックでもある。
なにかの間違いではないか?
患者取り違えとかの。
だって、痛くないんだけど。
というわけである。

痛みもないのに、悪いと言われても。なにか詐欺にあったような気分だ。涙を流しながら裸眼でうっすら見るモニターの中の胃の内部は、けっこう赤みがあったり、ぼんやりとではあるが白い部分も見えたりしている。
本人が知らない間に勝手に、お腹の中でこんなに赤らんでいられても何と言っていいのやら。ヒリヒリするとか、何かしら異変はなかったのかしら? 思い出そうったってそうはいかない。

わたしには適当なストレスの回避方法が身についているらしく、関わり合いたくない物事を適度にスルーできている。日々それらをかわしながらひらひらと歩いているため障害物ともさほどぶつからない。長らく気に病んでいることもない。車検の金額が思っていたよりも高くて飛び上がり、天井に頭をぶつけそうになった程度のことである。

とにかく痛みがない。これは困った。
少しでも痛ければ、なにかいつもと違うぞというものがあれば事前に診察にもいくのだが。なんかここのところ胃がキリキリするなとか、食べた後に痛むなあ、吐き気がするぞ、ふだんより多く食べると胃が重くて仕方がない、などなど。
何かがほしい。
なにかしらの違和感や、痛みがほしい。

アクションを起こしてくれよ、わたしの胃よ!

人間、痛みの感覚は大切である。
もし痛覚がなければどこにぶつけても痛くないし、カッターなどで間違って指先を切ってしまったとしても痛くなければ多少のことは大丈夫。スポーツで相手に強くぶつかっても、水泳の飛び込みで腹打ちしたってへっちゃら。
一見最強のようにも思えるが、痛みを感じていないけれども内臓破裂していたとか骨折しまくっていたとか、滝のごとく流血していたとかとか。痛みを感じるからこそ気づけることがたくさんある。痛覚は人命を助ける。

痛いとか、嫌だとか、声を上げなければごくごく近くにいる人にだって気づいてもらえない。わたしは今回、相手が胃だが、そんなの人間関係においても同じだよななどと思っている。
痛いとか苦しいとかキツイとか、困っていたならもっと周囲に分かるように感じさせてほしい。そうじゃないと、誰も気に留めてくれないぞ。
これ、自分の体にも、お願い。

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