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精神病院で生きていた話 その16

先日の大暴れの子が保護室から出てきた。名前は沙紀ちゃんと言うらしい。
いつもドンペンのサンダルを履き、ドンペンのTシャツを着ていて髪は青。
耳には無数のボディピアスが空いている。
 
年はまだ十代。でも幼さを感じない子だった。
 
「私、歌舞伎町のコンカフェで働いてたんだー」
「そうなんだ、よく大久保公園のそばで飲んでるよ」
「えー!じゃあトー横前とか通る?!私そこで看板持ってた!」
 
そんな話をしていて若いノリに元気を貰い仲良くなった。
カラオケで夢見る少女じゃいられないを歌うと飲みコールを入れたりしていた。
 
 
みんなで集まった時、「絵しりとり」が流行り始めた。僕のノートに絵を描きしりとりをしていく。
中でも和也くんの絵はみんなの中でも評判が良かった。いい意味でも悪い意味でも。
 
「これなに?」
「え?さっきの「か」で終わるものでしょ?」
「そうだとしてもわからない」
「だから…かではじまって…」
「あーそういうことね!」
 
ヒントを出しつつ進めていく。さっきは沙紀ちゃんの「鹿」で終わったので僕は「鏡」を描いた。
和也くんのターン。和也くんは珍妙な動物を描いた。ディズニーのような眼をした犬のように四つん這い。体はカメレオンのようで尻尾は垂直に立っている。中国産のトートバックにでも描いてありそうな絵だ。
「え・・・なんだこれ・・・」
「動物???」
 
みんなザワザワしはじめた。見た事のない動物だ。さっきは「み」で終わったので恐らく「み」ではじまる何か。それか和也くんが勘違いをしている。どっちだろう。和也くんは不思議そうに言う。
「え?さっきは「み」で終わったでしょ?」
 
和也くんの勘違いではないようだ。みんなで頭を抱えてしまった。
「ほら、有名なゲームのキャラクターだよ」
「え?なに?スライムとかピクミンとかピカチュウとか?」
「最後おしい!」
 
恐らくポケモンのキャラらしいという事がわかった。恐る恐る聞いて見る。
「これまさかミュウ?」
「そうだよ!どう見てもミュウでしょ!」
 
僕は子供の頃、ポケモンの絵を描くのが好きだったので正しいミュウを描いて見せる。
「こうじゃない?」
「大体あってるじゃん!!」
 「ちょっと和也くんには何が見えてるの!キャハハハ!!」
沙紀ちゃんが突っ伏して動かなくなってしまった。相当壺に入ってしまったようだ。
 
「これ貰っていい?iPhoneのケースの中に入れるわ!」
僕のノートを破って沙紀ちゃんはミュウを貰っていった。相当気に入ったようだ。
 
その日から和也くんは「画伯」というあだ名で絵しりとりには欠かせない人となった。彼の描く動物はそこはかとない気持ち悪さと緩さと可愛さがあった。みんなでワイワイとしているとここは精神病院と言う事を忘れそうになる。あぁ、楽しいな。このままずっと入院していてもいいな。そんな気持ちで夜を過ごした。


実話をもとにした創作精神病院入院記です。
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