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精神病院で生きていた話 その10

 
今日、恵ちゃんが退院する。
その日の朝、僕は4時頃目が覚めてロビーをうろうろしていた。落ち着かない。すると女性棟から足音がして恵ちゃんがやってきた。
「みっちー、作業療法室いこ」
恵ちゃんに誘われるまま作業療法室に行く。お別れの話でもされるのかなと思って少ししんみりしていた。
作業療法室の椅子に座ろうとすると恵ちゃんは僕にキスをした。前のキスとは違う、舌を絡めた深いキスだった。僕は我慢できなくなって恵ちゃんを抱きしめて腰に手をやる。恵ちゃんが切ない顔で僕を見てきた。
恵ちゃんは僕の股間をさする。僕も恵ちゃんのパンツに手を入れようとした。
 
「ダメ、お風呂入ってないから…」
僕は恵ちゃんの胸を揉みしだく。すると足音がして僕たちは慌てて距離を離す。
 
「あんれー、おたくら早起きだねー」
八木さんがやってきて僕らは不満なような安心したような顔をしながら八木さんと朝の体操を一緒にした。
僕はその後部屋に戻ると連絡先をメモ帳に書いた。
 
朝食の前にメモを渡す。
「退院したら今朝の続きしたいね」
「うん…待ってるね…」
 
しんみりして僕はロビーでテレビを見ながら検温の時間を待っていた。
すると看護師の仲山さんが怒った顔で僕の所に来た。
 
「三谷さん!あそこの部屋にも監視カメラあるんですからね!先生に報告させていただきます!」
 
僕は「あーあ…」と思った。ばつが悪くその日は診察だった。診察の後に恵ちゃんは退院する。恵ちゃんがこれで退院が伸びたら嫌だな…と思い、作業療法室にいた恵ちゃんの所へ行き事の顛末を話した。
 
「えー…川本先生に叱られるかな…怖い…」
そういって診察まで恵ちゃんはうなだれていた。診察室に入っていく恵ちゃんもうなだれていた。しばらくして診察室から出てくる恵ちゃんもうなだれていて、僕を一瞥すると部屋に戻っていった。
 
そして僕の診察。
 
川本先生は淡々と
「ルールが守れないという事は知能指数が低い可能性があります。知能検査をしてもいいですか?」
と知能検査の予約を入れた。
 
「三谷さん、ルールが守れないと私たちはあなたを隔離しないといけないんです。ちゃんとルールを守り、生活をしてくださいね」
と釘を刺されて診察室を後にした。
 
診察室から出ると廊下を歩く恵ちゃんの後ろ姿が見えた。
なぜかもう会えない気がした。
 


実話をもとにした創作精神病院入院記です。
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