見出し画像

精神病院で生きていた話 その22

「いつ怒られるか試してるんだ」
 
保護室生活3日目。僕はお風呂のために外に出してもらった。
 
「鏡を見て髭を剃りたいです」
といい看護師さんは
 
「じゃあ終わったら声をかけてください」
と言い、僕を洗面所において去っていった。僕はしれっとロビーに行き大関さん達と談笑をしていた。
 
「何あのババア!私の髪乾かすとか言ってきた!!」
沙紀ちゃんが少し怒っていた。どうやら同じく出てきた清水さんに余計な事を言われたらしい
 
「清水さん、美容師だったらしいよ」
「みっちー!出てきたの?」
「いや、いつ怒られるか試してる」
「ウケる(笑)」
 
そんな話をしていると看護助手さんがやってきて「三谷さん!部屋に戻りますよ!」と怒ってきた。
 
「あぁバレちゃったか」
 
12分30秒。それが僕に与えられた自由な時間。僕はこっそり時間を計っていた。
 
保護室に戻るとまた暇な時間がやってきた。
僕はヒマつぶしに筋トレなんかをしていた。どうせ一日暇なのだからと筋肉痛になるまで体をいじめていた。
夜はぐっすり寝れるかなと思っていた。
 
深夜2時。檻の外に掛けてある時計が目が覚めてしまった僕に教えてくれた。
寝直そうとマットレスでゴロゴロしていると金縛りにあう。
金縛りは筋トレで疲れているからだろうと思っていた。
寝転がって見上げている天井。そこから白い手がニュっと生えてきた。
僕が驚いているとその手はすっと天井に消えていった。
それから僕は一刻も早くこの檻から出たい、と思うようになってきた。
 
看護師さんは言う。「今日カワモト先生が来るからもしかすると出れるかもね」
そうなんだ、と思い安心していると川本先生ではなく河本先生がやってきた。
この二人は紛らわしすぎる。
河本先生は言う。
 
「川本先生は出張に行ってるから帰ってきたらお話をしましょう、来週には戻ってきます。」
僕は少し絶望してしまった。まだこの気持ちの悪い部屋にいないといけないのか。
気持ちを紛らわすために筋トレをたくさんしたり隠し持っていた食事のお箸でドアの塗装を削り絵を描いたりしていた。相変わらず夜は気持ち悪く、時々金縛りにあっていた。
 
4日後。川本先生が来た。
「三谷さん、何をやっているんですが。退院ももうすぐと言っていたのにこれじゃ慢性期病棟へ行ってしまいますよ。」
 
僕がいたのは急性期病棟。概ね三ヶ月しかいられない。恵ちゃんが稀有なケースだったのだ。それ以外の人は慢性期病棟という病棟に移されしばらくは出れなくなってしまう。恵ちゃんには会いたかったので慢性期に入ると伸びてしまうので嫌だな、と思ってた。
 
「もうしばらく様子を見ます。落ち着かないようなら慢性期ですからね」
 
川本先生は冷たく言って去っていった。僕は少し椅子を投げた事を後悔した。



実話をもとにした創作精神病院入院記です。
毎週金曜日更新予定。
無料公開ですが投げ銭、欲しい物リストでやる気が出ます。

欲しい物リスト

↓投げ銭↓

ここから先は

13字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?