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精神病院で生きていた話 その21

保護室に入るのは何度も精神科に入院している僕でもはじめてだった。
唯一別の病院で保護室に入った時はインフルエンザに罹り隔離された時だけだ。
その時は半開放だったのでいつでもトイレなどにはいけた。
 
でも今回は違う。檻の中の独房で過ごす事になった。
僕は悲しい気持ちはなくなりどんな生活になるか不安だった。それと同時にはじめての保護室にワクワクもしていた。
 
保護室は4畳半ほどの部屋だった。マットレスが一枚敷いてあるだけの部屋。隅っこには専用のトイレがある。ただ流す所はなく、看護師が来た時に声をかけ流してもらう物だった。
檻は基本的には開けてもらえない。食事の時。看護師さんが空けて部屋に食事を置いて出ていく。それくらいだった。
 
部屋で過ごす時間はとても暇だった。寝ているか、ゴロゴロしているかの二択。
隣りの部屋にいる清水のお婆ちゃんはいつもお茶を欲している。
前からロビーにいる時に「お茶くださーい!お茶くださーい!」という声がしていた。
 
「清水さん、いつもお茶飲んでますね」
 
檻越しに清水さんと少しお話が出来た。
 
「喉乾いちゃってねぇ。コップが小さいのよコップが」
「そうなんですね、看護師さんに言ったらでかいコップに変えてくれるんじゃないですかね」
「ダメなのよー、でかいコップで檻を叩くって変えてくれないの。紙コップなの」
 
などと清水さんとお話をして少し仲良くなった。
清水さんは昔、美容師をやっていて娘さんにここに入れられたそうだ。洗濯物は娘さんが持ち帰り洗濯をすると言っていたらしいがもうずっと来ていないらしい。可哀想だな、と思った。
 
「お茶、手伝いますよ」
 
と僕はいい大きな声で「お茶くださーい!!」と叫んだ。
すると清水さんも「お茶くださーい!」と叫んだ。
少し楽しい雰囲気になった。檻の中でも楽しい。楽しむことは実はどこでもできるんだな、と思った。


実話をもとにした創作精神病院入院記です。
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