【短編】公衆電話
「もしもし、あっ、俺。
別に用事があるってわけじゃないんだけどさァ ……
なんか、家に居づらくてさァ ……
今、外なんだけどさァ ……」
夜更けに公衆電話で長電話している男がいる。
茶色っぽい、キツネ色とでも言った方が近いだろうか。そんな色の服を着た男が公園の公衆電話で長話をしているのである。
30メートルほど離れた通りからもよく聞こえるような大きな声だ。
「それでさァ …… さっきさァ …… そうそう、
そんでさァ …… 俺がせっかくさァ ……」
コンビニで夜食を買った帰り道、通りかかった公園から聞こえる声。
よく見ると、前述の男が公園の公衆電話で長電話をしていたのだ。
今時、公衆電話で長話をする奴も珍しい。
まして、話の内容に耳を傾ければどうでもいいような内容だ。
一体どんな奴が、どんな理由で、こんな時間に、公衆電話で長電話をしているのだろう?
この通りからは少し遠くてハッキリした姿は見えない。
暗がりに浮かぶ姿と聞こえる話声から、キツネ色の服を着ている男であろうと言う事くらいしか分からない。
全くもってどうでもいい、関係ない事なのに急に気になってしまった。
公衆電話に近い公園のベンチに腰掛けて、さっきコンビニで買った稲荷寿司を頬張りながら、公衆電話の方へ目をやる。
「そうなんだよ……そうそう、
俺の所為じゃ無いのにさァ……」
なんだかキツネに似ているなぁ。
そう言えば、駅前の指名手配犯、確かキツネ目の男だったよな?
背筋が少しだけゾクッとした。
しかし恐るべし夜中のテンションと言うやつだろうか。顔を見てやろうと言う気持ちが抑えられない。
ベンチから立ち上がると、長電話男の近くへ歩いて行く。
「だからさァ……そうそう、
俺じゃないんだって……そんでさァ……」
長電話男の横に立つ。
お互いに目が合った。
「あっ、えっ !? 」
そいつはキツネ目の男じゃ無かった。
キツネ目のどころの騒ぎではなくそいつの顔はキツネの顔だった。
キツネ色の服ではなく、キツネの毛皮だった。
電話していたのはキツネ目の男じゃなく、紛れもなくキツネそのものだった。
「ギャァ〜!キツネだ!
本物のキツネだ !! キツネが電話してる~ぅ!!!」
「なんだって、キツネが電話してるって?
それって俺の事?
ふざけんなよな。そりゃ、キツネに似てるって言われた事もあるけどよォ……
だけど俺は、うさぎだぞ。
それを、キツネと間違えるなんて……
つり目のウサギが居て何が悪いんだ(怒)」
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