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アイドルと制服

皆さんは「制服」に対してどんなイメージを抱いていますか。
学生が着るもの、青春や若さの象徴、所属を表す記号、色々なイメージがあると思います。

突然ですが私は制服が大好きです。
女性が着る服の中で一番好き。街中で制服を見かけたら100%目で追うくらい好き。

私は以前、女性のアイドルグループをプロデュースするお仕事をしていたのですが、その時もことある毎に制服の衣装を着させて貰っていました。

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そんなある時、当時のマネージャーさん(男性)と話していると、「制服って、そんなに需要あるんですかね。私服の方が貴重だし、価値がある感じしませんか?」という言葉が。
ガーンと頭を打たれたような衝撃を受けました。
制服こそが全てだと思っていた私は「そんな視点もあるのか...」と驚きつつも、人が「制服に対して持つイメージ」というのはその人の生きてきた人生に大きく関わっているような、実は根の深いテーマなのかもしれないと思い始めました。

では私は何故こんなに制服に執着してしまうのか。アイドルと制服の関係性も含め、一度考えてみました。

◆アイドルと制服の歴史
今ではアイドルの衣装の定番となっている制服ですが、考えてみると昔からそうだったわけではなく、この流れを作ったのはAKB48だったのではないかなと思います。
そもそも大人数のアイドルはおニャン子クラブが発祥で、おニャン子はSAILOR’Sを制服がわりに着ていたので、本物の学生服を衣装で着る事はほとんどありませんでした。
その後の乙女塾も、雑誌や単発の撮影で制服を着る事はあっても、歌衣装のモチーフになる事は無く、
この時代では制服向上委員会が唯一と言って良いくらい、「制服を着るアイドル」だったのではないでしょうか。それには、80年~90年代のアイドルが『非日常感』を売りにし、テレビの中で華やかな空気を演出する事で憧れを抱かせるという手法を取っていたため、煌びやかな衣装のほうが好まれていたという背景があると思います。

それが、2000年代に入り、秋葉原の劇場をホームとしたAKB48が『会いに行けるアイドル』として誕生し、更に秋葉原を中心に活動するアイドルが増えた事で少しずつ変わって行きました。AKBの初期衣装、いわゆるA1stの公演衣装は全8着の衣装のうち、半分の4つが制服、グループとしてのメイン衣装も制服をモチーフにしていました。
AKBの衣装を担当する茅野さんが「会いに行けるアイドルがテーマなので、身近に感じられるように制服をモチーフにした」と発言しているのを見た事があるのですが、衣装さんとしての個人の意向だったのか、プロジェクト全体の意向だったのかは分かりませんが、初期AKBの衣装に「制服=身近な存在」という意図があったのは間違いありません。
実際、この頃から握手会などの接触イベントが定番になり、アイドルとファンの距離もグッと近づきました。

更に、世の女の子達の制服に対する意識も変わって来たのがこの辺りで、制服の種類も豊富になり、組み合わせを自分でコーディネートしたり、ファッションに取り入れたりもするようになりました。着る側にとっても、ただの『学生服』から、より身近で魅力的な物に変わって行った気がします。


◆なぜアイドルオタクは制服が好きなのか
アイドルオタクは、と書きましたが私の事ですすみません。
ただ、アイドルを好きになる人は総じて制服も好きなのではないかなと思っています。
「制服よりキラキラした歌衣装のほうが好き」という人もいるかと思いますが、「制服より私服が好き」という人はあまり見た事が無い気がします。(居たら是非その熱い想いをコメントください)

制服が好きな理由。好きな理由というより、自然に心惹かれたり、執着してしまう理由。
自分の心に正直に向き合って内省してみるに、
もうこれは、認めたく無いですが、「失われた青春の補完」に行きついてしまいます。どこかに置いてきてしまった物がありますよね...
100%青春を謳歌出来た人は、制服に固執する事はあまり無いのではないでしょうか。きっと、学校の卒業と同時に制服の呪縛からも卒業しているんだと思います。

私は、アイドルとは「失ったものや足りないものを埋めてくれる存在」だと思っているのですが、そんなアイドル達が衣装として制服を着用する。『アイドルファンにウケが良いから』という理由も少なからずあるかもしれません。ただ、制服が象徴する「若さ」や「限られた時間」「集団への所属」。これって、アイドルととても親和性があるなと思います。
女性がアイドルを出来る時間は限られていて、それは一般的には若さと共に語られるものです。
制服も「その時期にしか着られない服」ですよね。
そしてグループアイドルであれば、みんな同じ衣装を着て活動をする。
グループに所属する「記号としての衣装」に「学生服」を用いるのは、自然な事では無いかなと思います。

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私はグループアイドルが好きです。それは、「関係性」を通じて「個性」が色濃く出るからです。
同じ衣装を着て、同じ活動をしていても、そこから滲み出て来る、または枠を突き破って出て来る個性が面白いなと思います。
様々な個性を持つ女の子達が、1つの場所にまとめられている状況が面白い。
同じグループにいなければ絶対に友達になっていなかったような子達が一緒になって、試行錯誤しながらなんとかやって行く姿。
バンドやアーティストのように、自分の意思で集ったのでは無く、「集められた女の子たち」。
そういう「学校のクラス感」がグループアイドル(特に大人数)の面白さだと思っています。

そして、その様子を楽しむアイドルオタク。
彼女たちをずっと見ていると、なんだか自分もクラスメイトになったような気持ちになって来ます。
握手会では同級生に話かけるかのように同じ目線で彼女たちと話す事が出来る。
そしてアイドル達も、私たちをクラスメイトとして受け入れてくれます。

我々オタクはここで失われた青春を取り戻しました。2005年にAKBが出来てから、アイドル達がみんな制服を着始めて、2010年くらいまでの秋葉原は、まさに「学校」という感じでした。あちこちの会場はそれぞれが学校のクラスのようで、そこにはアイドルとオタクだけの、様々な青春の形がありました。

学生時代には話しかけられなかったクラスメイトの女の子たち。遠くからそっと見ていた女の子たち。そんな、現実世界では遠い場所に居た女の子達と、「握手券」を介す事で対等な気持ちで会話をする事が出来ました。

更にアイドル達はそれぞれ『夢』を持っています。それを一緒に応援する事で、部活タイプの青春まで味わえてしまう。2つの青春軸によって、私たちは失われた学生時代に一気に引き戻されて行きます。

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私は女子で、なおかつ女子校育ちで、共学の経験すら無いのですが、何故か自分の中に「クラスの女子とは話せず、教室の隅で一人本を読んていた少年」が居ます。いつから住み着いているのか分からないけれど、ずっとその少年と人生を共に歩んで来ました。学校に良い思い出が1つも無かったのでそれが屈折してそういう形になったのかもしれません。

まず基本的に女子が怖い。
めちゃくちゃ好きなのに、でも怖い。
近づいたら傷つけられてしまうのではないかと、いつも壁を作って構えてしまいます。
だけど、「制服」を着ている事で、その怖さが少し和らぐと言うか、集団に属している、皆と同じ物を着ているという感じが安心感をくれます。
逆に、私服は「自意識」の集合体です。若い女の子は特に、ファッションで自分を表現しようとしたりします。もしも自分が想像するような私服では無かったら。幻想が崩れてしまったら。でも、どんな子なのかは知りたい。
そんな相反する気持ちに寄り添ってくれるのが「制服」というフィルターなのではないかなと思いました。

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私は、運営の立場でも制服に向き合っていました。
何でも無い顔で衣装としてメンバー達に着て貰っていましたが、やはり他の衣装の時とは気持ちが違ったと思います。
制服の衣装は全て自分で選ばせて貰っていたのですが、お世話になっていた貸衣装のお店の制服コーナーは、私にとって夢のような場所でした。どんなに疲れていても、ここに来ると元気になれるパワースポット。ここに住みたかった。

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普通の衣装の時にメンバーと話すより、制服衣装を着ているメンバー達が喋りかけてくれるほうが嬉しさが増しました。(きもちわるい)
プロデューサーなんだから話しかけてくれるのは当たり前なのですが。カメラを向けながら、会話をしながら、私は失ったものを埋めていたような気がします。

メンバー達はどう思っていたのだろう。普段学校で制服着てるんだから制服ばっか着せんなよと思っていたでしょうか。本当にごめんなさい。でもとっても可愛かったよ。

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そんな感じで、私たちは失われた青春を、制服とアイドルに取り戻して貰って来ました。
アイドル側には知ったこっちゃない事で、迷惑な話ですが、我々は感謝が尽きません。
アイドルの子達を見ていると、たまにとてつもない慈悲深さを持っている子や、元々そうでは無いけど、活動を通して様々な感情が芽生えて行く子が居たりして、そういうアイドル達がオタクと心を通わせる瞬間が私は大好きです。
アイドルとオタクという関係でなければ出会わなかった者同士が、あの時クラスの中心に居た美少女と隅で本を読んでいた少年が、アイドルという活動を通して心を通わせる、アイドル現場が教室のような空気になる瞬間が尊くて大好きです。ももクロとか、Perfumeとか、あの頃の秋葉原はそんなミラクルな瞬間が沢山あったなぁと思い出します。自分の担当していた現場でも、メンバーとファンの皆さんが一緒にふざけ合ったりして楽しそうな空間が本当に大好きでした。

アイドルと制服は切っても切り離せないものだという事。そして、この青春から永遠に卒業せずに居たいけれど、アイドルは、女の子達はいつも私たちより先に卒業してしまうという事。
それらは紛れもない事実で、私たちは今日も同じ場所から、卒業して行く彼女たちを見送り続けるのでした。(だがそれも楽しい)



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