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時に流される人、時を創る人

 『時に流される人ではなく、時を創る人になって欲しい』。
2021年10月1日ソフトバンク株式会社入社式での取締役会長、宮内謙氏の言葉だ。この言葉を聞いた時と同じ感情を、最近抱いた。2023年5月13日、母校カリフォルニア大学バークレー校の卒業式でスティーヴン・ウォズニアックのスピーチを聞いた。スティーヴンはAppleの共同設立者の一人。コンピュータ・エンジニアである。彼は1986年6月に電子工学の学位でカリフォルニア大学バークレー校を卒業した。
 1971年の秋、スティーブ・ジョブスと共に世界中どこにでも無料で電話がかけられる装置を販売し始めた際は「バークレーブルー」の仮名を使うなど、バークレーに人一倍愛着を持っている彼が卒業生代表として登壇していた。スティーヴンの人生は、コンピュータなしには語れない。彼は幼少期、偶然雑誌でコンピュータの記事を目にした。直感でコンピュータが自分を導き、生涯情熱を捧ぐものになることを悟り独学でコンピュータの設計図を夜中まで紙に書いた。Appleが初期に製作・販売したマイクロコンピュータApple Iを。その約1年後に発売したパーソナルコンピューターApple IIを、ほぼ独力で開発している。2017年に出演した日本の人材サービス会社、パーソルホールディングスのCMでは、自身のキャリアから得た教訓を、“I discovered that I can do things in my life for my passions.” (人生の原動力は情熱だ) “Things I enjoyed I want to work harder. ” (好きだから夢中になれる) “That’s less important what you learned, more important you get motivated. ” (何を学んだかよりやる気が重要さ) と語っている。彼が自分の人生で見つけた情熱の矛先は、自分を表現し、創造的なことを可能にするコンピュータに向いていた。
 示唆に溢れたスピーチの中でも、特に印象的だったのが「自分の個性の理解」と「時間の重要性」だった。「今日は簡潔に(ブリーフ)面白くと言われてきたから、ローブの下にブリーフを履いてきたよ!」。から始まる彼のスピーチは、親しみのある彼の人柄を知らしめた。2020年、元Apple従業員のガイ・カワサキ氏がホストを務めるポッドキャストにゲスト出演した際は、共同創業者にも関わらず現在もAppleから唯一約50ドルの週給を得ていると語っていた。その後も彼はスピーチ内で “HAHA” と書いたカードを自ら取り出し笑いを呼んだ。社交的に見えるが実は人見知りで恥ずかしがり屋な自身の個性を「1人で過ごした時間が主体性を育み、型に囚われない独自のアイデアを生み出した」と評価した。一見マイナスに見える人見知りという個性をプラスに捉えていた。彼は続けてこう言った。 “Life in not a dress rehearsal.” (人生は舞台稽古ではない) “You are living it.” (今この瞬間も本番だ)。約1年半前、これから始まる社会人生活への期待や不安、希望などさまざまな感情が波のように押し寄せてきた、あの感情に似た感覚が呼び起こされた。“As you depart today, realize that time only moves in one direction. (今日この学舎を出る際、時間は前にしか進まない) ”と彼は伝え、“BYE” と書いたカードを取り出し笑顔でスピーチを締めた。
 私にとって良いスピーチとは、自身の可能性に気付かせ希望を与えるものだ。思えば私の人生のテーマは “自分らしさ” にあるのかもしれない。学生時代のインターン先株式会社ココナラは、ビジョンに “一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる” を掲げていた。取締役会長の南章行氏は著書『好きなことしか本気になれない』で、正解がない中で「自分で目標を決め、実行して達成し、自分で評価すること」をセルフリーダーシップと定義し、それを発揮することで「本当の自分らしさ」を見つけられると話していた。私は現在SBイノベンチャー株式会社で継続的に新規事業を生み続ける仕組み作り、またそれを可能にする事業創造人材の育成を行っている。具体的には2011年から続く社内起業制度の運営や、起業家を招いた講演会の開催などを行っている。そこに携わる根底には自分らしさを生かすきっかけ作りを手伝い、それを生かして欲しいという思いがある。冒頭の宮内氏の言葉、そしてスティーヴンの言葉は、私に希望を与えたと同時に、社会に還元できる何かを生み出したい、という起業家マインドを確かに醸成させてくれた。
(2023.5.22)

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