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梅雨、時化、荒れCruう 【東京九州フェリー乗船記】

御高覧いただきありがとうございます。
先日、新たなる長距離航路として無事就航を飾った東京九州フェリー(以下、TQF)に乗船しました。この記事では、その乗船記録についてまとめていきます。




まだ私が幼かった頃、JR時刻表の路線図が描かれたページを読み、長距離フェリーでの旅に思いを馳せていた。「行きは急行はまなす、帰りは苫小牧〜大洗の航路で北海道行きたいなぁ」と憧れていたのも懐かしい。
それから10年ほどが経ち、旅程を組み立てる際には、すっかりフェリーを敬遠するようになってしまった。格安航空会社の台頭も理由の一つだが、何より航路は、陸路や空路と比較して圧倒的に遅いのだ。社会人となり、休日の取得が難しくなった状況において、目的地での観光時間が短くなりがちな海上交通では分が悪い。
そんな私を動かしたのが、某氏の『フェリーそのものが目的地になる』というツイートであった。なるほど、海上のホテルと言えるフェリーでは、長い航路でも豪華な設備によって退屈しないだろう。
さらに追い風となったのが、2021年7月1日に就航が決定したTQFの存在である。「幼少期から憧憬の的だった夜行フェリーが地元・横須賀から出航する!これは乗るしかない!」と心惹かれ、初の長距離航路乗船の決意へと至った。

予約開始日の"9時打ち"には敗北を喫したものの、キャンセル待ちから予約が取れていた。

そして7月1日、一路横須賀へ…

最寄りの横須賀中央駅からフェリーターミナルへは、徒歩10〜15分ほど。連絡バスはないが、タクシーはワンメーターの料金で済むため、雨天でも臆することはないだろう。

そしてー

軍港たる横須賀で巨大な艦船には見慣れていたものの、長旅へと誘うフェリー「はまゆう」にはまた違った趣がある。ここから九州へ旅立つと思うと気持ちが華やぐのだ。

7月1日23時45分、いよいよ出港の刻。
あいにくの天気にも関わらず、多くの見送り客が手を振ってくれた。
私は航路の栄枯盛衰について詳しく存じ上げないが、きっと長距離航路の新規就航など人生のうち一度立ち会えれば良い方だろう。軍艦をぼーっと眺めていただけでは見ることのできなかった世界がこの横須賀に広がっており、地元民として感無量の瞬間であった。

前述の通り、横須賀港の出港時刻は23:45と非常に遅い時間帯である。予定を切り詰めれば、退社後に博多や札幌から横須賀港へ駆けつけることも不可能ではない(退社を18:00と仮定)。
そんな深夜発のTQF、出港を見届けた後は早く床に就きたいところであるが、TQFは乗客をすぐには寝かすまいと、出港から消灯(1:00)までの時間においてもおもてなしを用意して待ってくれている。

1つ目のおもてなしは、ラインナップ勢揃いの夜食である。口が寂しい時にいただける唐揚げ・ソーセージ・枝豆などのおつまみから、カレーライスやうどんなど、空腹を満たすメニューまで注文できると、幅広いニーズをカバーする内容となっている。レストランに立ち寄らずにはいられないだろう。

横須賀の街並みを肴に晩酌もまた一興。

2つ目のおもてなしは、大浴場である。学業•仕事終わりに横須賀へ直行する人も多い中で、このサービスは言うまでもなく嬉しいもの。一日の疲れを、船上の風呂で癒す体験価値は非常に大きい。


夜食を済ませた私は、少し船内を巡ることにした。

エントランスは開放感溢れる吹き抜けの構造。中央を貫くエレベーターシャフトの存在感も相まって、ここが船の中であるということを忘れさせてくる。

船内4Fには、前述のエントランスホールのほか、売店・自動販売機コーナー等の施設を備える。売店にはおつまみ・インスタント食品・酒類・アイスから、フェリーオリジナルグッズまで取り揃えている。
特筆すべきは、キャッシュレス決済に対応していることだろうか。新造船は、時代の潮流にも乗ることができたようだ(なお、自販機コーナーやレストランでは現金決済のみとなる、ご注意を)。

船内5Fには、フォワードサロン、レストラン「うらら」などの施設を備える。海を展望しながら休息を取るのは、酔い止めにも効果的である。


船内6Fには、大浴場、スクリーンルームを備える。
スクリーンルームは予約制で、プラネタリウムや映画の上映などが企画されている。

その他、各所に散りばめられた、意匠を凝らしたインテリアデザインも必見であろう。


7月2日7時ちょうど、起床した瞬間から船は凄まじい揺動に見舞われていた。ベッドに身体が押し付けられたかと思えば、無重力空間に放り込まれたかのように身体が浮き上がる、そんな状態の繰り返しである。
レストランへ向かうため、ベッドから起き上がったが、その瞬間から吐き気に襲われる。とても食事にありつけるような状況ではなかった。

当時の波高は4m、風速は19mだったという。そんな荒れた太平洋を50km/h超という速度で航行する船内の様相は想像に難くないだろう。就航初日の活気溢れたTQFは、一夜にして沈黙の艦船となってしまった。

TQFは、横須賀⇔北九州の航路をたった2隻のフェリーで輪番している。運航日は週6日。21時間の航路を経て北九州に接岸した当船は、3時間弱の間に出港準備を整え、北九州を後にしなければならない。この厳しいダイヤで定時運航するためにも、時化だからといって速度を落とすわけにはいかないのだ。船内で嘔吐する者が続出するのを尻目に、はまゆうは外洋航路を快走する。


船の揺れもやや穏やかになり、腹の虫も鳴り始めた頃、ようやくレストランへと足を運んだ。
金曜日の洋上、横須賀から出発した艦船でカレー・サラダ・牛乳をいただく、それだけでもう海軍気分である。
昼食メニューはその他、三崎まぐろ&シラス丼、はかた唐揚げ定食、長崎ちゃんぽん、鹿児島産とんかつ定食などというラインナップだ。三浦半島の海の幸や九州名物を堪能できる内容である。

夏季シーズンのみ、デッキにてバーベキューも楽しむことができる。


お待ちかねの入浴のお時間。相変わらず船内は揺れが激しく、浴槽のお湯が左右に大きく揺れ動く様はレジャー施設のような楽しさを生む。
露天風呂では、潮風の影響もあって、お湯の揺れがさらに激しくなる。お湯が直接顔にかかったりもしたが、それもまた、小さな楽しみであった。


夕食では、Cruising Resortの名物だというビーフシチューセットを注文した。TQF最後の食事に、高級感漂う洋食を味わえるのはなんとも感慨深い。
濃厚なシチューに噛まずとも解れる牛肉に舌鼓を打つ。豊後水道に入り、揺れも落ち着く中でのこの膳は、また船の上にいることを忘れてしまうほどの出来栄えであった。

夕食を終えると、まもなく新門司港への接岸が迫っていた。

21時ちょうど、はまゆうは定刻通りに新門司港へ到着した。"フェリーは遅い"という先入観は何処へやら、21時間の船旅は刹那に過ぎていった。

今回の船旅は、私にとって新たな世界を開く第一歩となった。丸一日の時間を費やしてでも長距離航路は乗る意義がある、はまゆうは私にそう教えてくれたのだ。
学業•仕事終わりに、是非横須賀から気ままな船旅に挑み、洋上での非日常を体験してはいかがだろうか?
船酔いが心配な諸氏は、春や晩秋の太平洋が比較的穏やかな時期を推奨する。

最後に、今後のTQFの益々の興隆を願って、擱筆とさせていただきたい。

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